(アレルギーの症例:17)毎年冬に悪化する理由は??

ネコちゃん・MIX・避妊メス・初診時9歳3か月

病 歴:
元々いわゆる猫のカゼ症状があった子で、3年目で一度眼の痒みで診察されています。 本格的には6歳くらいからお腹や手足の皮膚症状が発生しています。今回は耳の先が特に酷くなり、どうしても治らずに来院されました。

ものすごくしっかりと予防もされ、病状の把握を記録して頂けていて、状態の把握に助かりました。

問診と記録からは・・・毎年の他院受診が1月・2月・12月・1月・・・あれ?いつも冬に悪化している感じです。
アレルギー検査もしておられたみたいですが・・・
う~ん、これは無意味な会社・検査体系のものでした。検査は安くないので有効に利用したいものです。

初診時:
今年も冬には悪化し、そのコントロールをステロイドを中心に投薬をして頂いていたご様子です。「それはもうアトピーっぽいじゃないですか」と某漫才師じゃないですが色んな先生が思うところです。
ですので同じ治療を色々としていたそうですが、今年は軽快するはずの季節になっても治療しても治療しても悪化の一途だそうです。
そしてついに半年以上経ち真夏になっても治らないとの事です。特に酷い場所は耳みたいです。

 
左耳と右耳です。なるほど、後で詳しくダーマカメラで拡大して確認したいですね。

ネコで耳の病変でしたら「糸状菌(カビ)」「疥癬ダニ」が圧倒的に多いです。外に出る子ならなおさらです。
この子は外出しませんが、やっぱり鑑別からは外してはダメです。
果たして感染でしょうか?以前にネコのアトピー様皮膚炎に糸状菌が感染した症例もありました。
感染症の症例1

身体に関しては治療のお陰か、季節のお陰か、典型的な粟粒性皮膚炎は散在程度でした。


・・・と言う事はアトピー様の皮膚炎が有っても、既に基本的には終了してそうです。 内服は要らないかな?と思いました。

治療経過:
早速ダーマカメラで撮影してみます。

脱毛して乾燥して皮膚が薄くなって、血管が拡張しつつ透けて見えて、面皰(皮脂、黒ニキビ)・・・。
「これってステロイド皮膚症かな?」と疑えました。ネコさんの場合には耳では軟骨が変形してカールしてしまう事もあるのですが、基本的には犬と同じになります。
たぶん当ページをご覧頂いている方にはお馴染みのワードかも知れませんが、獣医師の指導不足+本人の体質+ご家族の熱い想いが「この状態」を多々発生させてしまいます。 この子もステロイドの強さのランクは高くないものの、ステロイド外用薬の使用頻度が高そうです。弱いステロイドでも連用は危険です。

ただし、それを診断して(疑って)も唐突にステロイドを終了させてしまったり、適切なフォロー(保湿等)をしないで余計に痒くして舐めさせたりで悪化させる場合も多いです。 外用を止めるならば、それに対して何かを同時にしなければ、何も考えずに撤退戦を開始する様なもので悪化は必須です。 それにステロイドの外用は「プロアクティブ療法」として継続が必要な子もいるので、簡単に中止してはいけません。

更に大事なのはやっぱり感染症の除外はしっかりする事です。
当院では各種皮膚検査をしますが、それは「病気の原因を発見する」為にしていますが「病気の原因を除外する」為にはしていません。

なぜならどうしても発見が難しい事があるからです。ですので費用の問題で省く事は有りますが、基本的には試験的な駆虫などは積極的に行います。
試験的な駆虫は「予防」にもなります。例えば純粋にハウスダストアレルギーの子を良好に治療・管理できても、近所の梅小路公園でノミ感染をして放置してしまって皮膚症状を起こしてしまっては・・・これはもう意味が有りません。
アトピー(アレルギー体質)の子が2~3年ノミ感染をするとノミアレルギーになるとの報告も有りますので、予防は気を付けて絶対に損しないと思います。

そうやって色々と考えてすると「高い!」って評判になってしまうんですが(苦笑)。でも逆に無用な検査、特に無効な会社のアレルギー検査を避けたり、薬も価格の説明から丁寧に行って治療法を選択して頂いたりもしているんですけどね・・・。

さて、治療方針は
「感染症の徹底した除外診断と試験駆虫を兼ねた予防の徹底」
「アトピー管理(ただしシーズンは超えてそうなので、今年の投薬のフェードアウトと翌年の相談)」
「安全なステロイド皮膚症の離脱と管理」
に決定です。


片耳を撮るのを忘れました・・・が、両方共大丈夫です!バッチリ治りました。

元々の主訴は耳なのですが、これは正直言って治すのは難しく無いです(ただしすぐに結果が出ないので、ご家族様のご理解と根気は必要です)。
問題は魔の冬のシーズンをどう過ごすのか?です。
かなり頑張って食事にも気を遣ってられましたが、どうやら季節性があるので食事アレルギーは除外できると思いました。 その他にも食事を疑うポイントが合致しないのもポイントです。ですので食事は美味しく好きに食べて頂きますが、ちゃんとセレクトと把握だけはして頂きます。 この点は他の皮膚疾患の子と同じです。

寒さが原因で耳の先に症状が出る血管炎(ミニピンやイタグレさんに多いです)なら防寒や血流向上の処置ですが、この子は暖かいお家でまったりと過ごしています。
寒さでなく冬に発生する何か?に反応していると思うんですが・・・。 一番単純な方法は「そういうもんだと諦めて(花粉症みたいなもんですね)、シーズン前に投薬を開始して、シーズン後に投薬を終わる」でしょう。

でも諦めが悪いので、長々と問診をさせて頂いて一緒に可能性がある物を可能な限り避ける相談をしました。

そんな中で思い当たったのは暖房です!北区の方でかなり寒いとの事で特別に燃料を使って強力に暖房をしてくれるみたいですが、どうもそれが怪しいんじゃないか・・・と。
もちろん確定ができるものでは無いので、その他色々と「冬の恒例な事」を変えれるものは変えて頂きました。その結果、シーズン最初に少し投薬しましたが、今年は何も無く過ごせました!

ネコさんは投薬ができなかったり、洗えなかったり、外用薬を塗れなかったり・・・治療が不可能だったり大変な事が多いです。 しかも基礎疾患があって、ステロイドやシクロスポリンや抗ヒスタミン薬ができない場合も有ります。 更には食事変更も難しかったり・・・(実は論文によると食事が原因だとネコの方がイヌよりも改善はし易いらしいですが)。

そんな中でご家族の皆様にはご苦労を頂いていますが、熱心な観察と記録で原因を除外できる事もあります。
同じ年には長年の投薬をしていたネコさんで「お気に入りの毛布を変えたら急に治った!」と言うパターンも有りました。もちろんハウスダストや接触の問題で色んな可能性をお伝えして、変えれるものを変えて捨てれるもの捨てて・・・と最初からお伝えはしているのですが、余りにも日常過ぎて忘れている場合も有ります。

お薬が必要な場合は適切に使う事が大切だと思っていますが、しっかりとご家族と対話をして一緒に考えて使わない維持を目指したいと改めて思いました。 この子のご家族も本当にしっかりと把握して改善ができるので穏やかな冬を迎えられたんだと思います。

*無投薬での完治は難しいので、現在最小限のシクロスポリン投与で維持してくれています。