(腫瘍の症例:6)皮膚炎?皮膚型リンパ腫?もっと特別なものでした。

ワンちゃん ミニチュアダックス 初診時11歳2か月 未去勢雄

病歴:
小さい時からの眼瞼周囲の発赤と脱毛と外耳炎が有ったそうです。当院来院3か月前より足裏中心に痒みを伴って発赤し、他院にてステロイド内服を高用量で連用、殺菌シャンプーにて週1日洗浄を行っていたそうです。9日前から細菌感受性結果に基づき長期有効な抗生剤を注射するも改善を認めず当院を受診しました。

症状:
全肢の指間が発赤を伴って肥厚し脱毛、一部はブツブツや皮膚炎を認めました。


足の裏です

各種検査の結果は常在のマラセチア感染だけでした。足以外では両目の周囲や鼻平面も軽度の発赤を伴った脱毛を認め、両耳は脂漏性外耳炎になっていました。
血液検査ではステロイドの影響と考えられる肝数値の異常が著しく、効果も認められない為に漸減し3週で終了し、別のかゆみ止めをしました。
スキンケアを週2~3回行い、局所に各種外用薬を塗布しました。カラー装着し舐めを防止し、検査では発見されなかったが疥癬や毛包虫の試験的駆除をしました。

1週後から痒みは激減しマラセチアも減少しましたが手足の病変は悪化し、特に左手の腫脹が著しい為に第20病日に針生検をしました。結果は炎症と言う事でした。

ただ、炎症なら他院での高用量のステロイドや当院での治療に反応しそうなものです・・・。
抗炎症効果も有る抗菌剤の追加投与などをしましたが、手足の病変は悪化を続けました。
第35病日、局所麻酔下で右手の小結節を切除し病理検査をしました。結果は「散在する異型性のある円形細胞を含む限局性の慢性皮膚炎」でした。
様々な炎症細胞の中に少数の異型性のある大型細胞を散見しましたので、同時に免疫染色や犬リンパ球クローン性解析をしましたが腫瘍性の結果は出ませんでした。
やっぱり炎症??でも何かオカシイ・・・。

第60日病日以降、手足の腫瘤の自壊が進行し、特に右手にて大きな腫瘤ができました。
第71病日特に大きな右手の腫瘤と左手の小さな小結節を2か所、症状の緩和と更なる精査を兼ねて全身麻酔下で切除しました。


大きくなって歩けないし、汁も出るし・・・


もっと大きくなりそうな部分が他にも・・・

病理検査所見は何と「非上皮向性T細胞リンパ腫」 でした!やっぱり腫瘍!!
皮膚型リンパ腫も珍しいのですが、非上皮向性は非常に珍しく正直初めてでした。
4つの病理検査機関・東大で更に各種検査を行いPTCL炎症混合型と確定しました。
病理検査写真や経過は禍々しい程に悪く見えます。
そして古い本を調べると「非上皮向性皮膚型リンパ腫は予後不良」と書いてあります。
確かにどう考えても見た目も病理も悪そうですが・・・。
ですが手術部の再発は無くきれいに治り、足全体も鎮静化しました!

一番大きな腫瘍を取った所です


少し赤い程度です

実はこのタイプは多い上皮向性皮膚型リンパ腫とは違って、予後が良いタイプです。
(昔はそれが分からず上皮向性と同じ強力な抗がん剤をされていた子もいるようです・・・)
ただし急激な悪化と治癒をくり返し、根本的にはそれに付き合っていかねばなりません。
人間では色々な染色等で更に詳しく分類し予後を判定し治療しますが、犬や猫では全然進んでいないのが現状です。
この子は残念ながら急な再発も予想されます(赤い他に少し結節も出ています)。
その時に一番良い治療をしてあげる為と微力ながら獣医療の発展の為に個人的に貢献したいので、
個人的に更に詳しく病気と治療法を検討して発表と論文にまとめていきたいと思っています。