(その他の症例:7)急に破裂して膿が!突然発症する無菌性結節性脂肪織炎

■わんちゃん トイプードル 初診年齢2歳4か月 去勢オス
■病歴:特記事項無し
シャンプー後?ドッグランに行った後??
特に思い当る事が無いのに急に左目の上が痒くなりました。


上と言うよりも全体に眼瞼炎が酷いですね

その2日後に右手を痛そうに挙げる様になりました。一見関係無さそうですが、後から思えば自己免疫疾患の症例1のスィーツ病の子もそんな症状が・・・時に関節炎は要注意のサインです。この時は正直言ってその可能性を十分に考えられていませんでした。
更に4日後、左首に急に大きな排膿が!!そこには大きな穴が・・・。


耳の下です。ハムスターでは外耳炎から穴が開く部です

この急激な開き方は変だな?と言う事で「治らなかったら色々な検査をさせて頂きますね」と、お伝えして抗生物質をお出しして次の日、なんと身体の他の3カ所に同様の膿瘍がボコボコと多発しました!さすがにこれは変です。酷い感染なのか、特殊な病気なのか・・・。

  
左から首の下、そして残る2つは右肩です。どれも1cm程度の結節です。

破裂する前に結節の各種培養検査をしなくてはなりません。中に針を刺して新鮮な膿を採って染色して見たら細菌が確認できない脂っぽいドロドロした炎症細胞が沢山出ている普通では無い膿が・・・。もしドッグランで虫刺されなら好酸球と言うのが沢山出ますが、今回は違います。これはもしや!?と言う事で、生検し組織検査に出させて頂きました。

病理の結果は「結節性化膿性肉芽腫性皮下織炎」でした。細菌感染を疑う像が無く無菌性だろう事は顕微鏡でもある程度は分かりますが、最終的には病理検査に加えて、各種培養で陰性で有る事も合わせて考えます。この子の場合も細菌も真菌も培養結果が陰性でした。

この病気は「無菌性結節性脂肪織炎」「無菌性肉芽腫」「化膿性肉芽腫性症候群」など色々な似た感じの病名が有ってややこしいのですが、基本的には原因や発生機序が分からない病気です(ですので、その他に分類しました)。日本で多く報告されているのは手術時の縫合糸に対する異物反応や膵炎、栄養不足、未知の感染性病原体や、病原体に対する免疫学的機能不全(過剰症)に起因するとの説も有ります。色々な犬種に発生しますが、ダックスに多いと言われます。

治療は抗生物質には反応しないので、思い切って高用量のステロイドをする必要があります(ビタミン・抗生剤の併用療法も有ります)。手術での縫合糸が原因なら外科的に切除が必要になる事もあります。この子は高用量のステロイドを投与しました。
最初の破裂した部分の穴が大きかったので、炎症が治まった後に、ちょっとした外科処置が必要でしたが、無事に治りました!ステロイドでの副作用も無く順調に減薬もできました。良かったです。ですが油断しないで薬を漸減していく事が大切です。

 
左が首の下の膿が破裂して大きな穴が有った所、右が検査した結節の有った肩の写真です。

ちなみに治った後に違う毛色の毛が生えるのは特に薄い毛色の子には結構ありますよ。