(その他の症例:14)アロペジアX(毛周期停止)は珍しくは無いですが、ファントムイッチは…
ワンちゃん ポメラニアン 去勢オス 7歳
■病歴:
発症は3年前からなので4歳過ぎ、主訴は脱毛と痒みですね。頭頂部と手足は発毛していて、体幹が脱毛しています。膿皮は無いです。皮膚はやや乾燥気味で、ちょっとキシキシした独特の毛の質感です。
■初診時:
問診や視診で言えばアロペジア✕(毛周期停止)はかなり怪しいです。
更に前の病院で甲状腺機能低下症も否定されています(でも数値としては正常低め)。ただ、この子は甲状腺のお薬を投薬されています。これに関しては確かに「甲状腺ホルモンが少なめだと発毛し難いだろうから投与しよう!」って先生もおられます。
確かに一つの方法だと思いますが、二次的な原因で甲状腺が減る事も多いので注意ですし、自分で出せるのに外から投与する事で自分で出す能力が低下する可能性も有りますし、動悸が激しくなったり等の副作用も無くはありません。 ですので僕は基本的には「甲状腺機能低下症」にだけ甲状腺の治療薬を使う方向にしています。
さて症状です。
背中です
胸です
お尻です
確かに典型的な気がしますし、何とか発毛して欲しい願いは痛いほどに分かります。毛が無い事で膿皮症になり易くなり、結果として痒みの症状も出ますしね。 この子は膿皮症は無いので痒みはありません。え?痒みがある?それが悩みの一つ??アロペジア✕(毛周期停止)となると膿皮症が無かったら痒くないはずですが・・・。それは甲状腺機能低下症だとしても同じはずです。
確かに一番痒いと言う首元を掻いてあげると、物凄く掻く動作をします!あれれ?でも実際には掻いて無い様な・・・。問診でも日常の痒みレベルはかなり低く、痒みは発作的に発生するご様子でした。
それに太っていて動かないのかな?と思ったら、どうやら神経学的検査をすると右を中心に不全麻痺をしている様子です。
もちろん皮膚科は大切に思っているのですが、この子の場合にはもっと優先される検査と治療があります。それは頸部の神経学的な検査と治療です。恐らく首の掻く動作は「頸部の違和感(痛みやピリピリ感?)等が引き起こす「ファントムイッチ(ニセの痒み動作)」の可能性が高く、その原因としては「脊髄空洞症」が一番多いと考えられました。 京都には御所南に日本一と言っても良いペットの神経科の先生がおられますので、早速ご提案しました。
皮膚科で遠路はるばる来院しているのに、すぐに「神経科に行ってくれ」と言われてしまっては「え?何言ってんの?」となっても不思議では無いのですが、本当に熱心で素晴らしいご家族でした。 大切にして貰って幸せな子です。早速名医のいる神経病のセンターへMRI撮影に行って下さいました。
MRI画像です。脊髄髄質の右側寄りに中心管の拡大が認められる像(白い所)です。
左側が頭部です。頸部に異常(白い所)が認められます。
【病歴、神経学的検査所見、MRI 検査所見から、「脊髄空洞症」が本症状の原因である可能性が疑わ れます。頚部における椎間板ヘルニアは軽度であり、本症状の原因である可能性は低いと考えます】とのご報告を頂きました。
治療方針も投薬計画も頂き、これでアロペジア✕(毛周期停止)の治療に専念できます。もし脊髄空洞症によるファントムイッチの診断ができてなければ例え毛がフサフサになっても「何だかずっと痒いんですけど・・・」「マヒが進行して歩けなくなった!皮膚の治療のせいで?!」ってなるかも知れません。
アロペジア✕(毛周期停止)の治療を開始して3か月後・・・
かなりフサフサになってくれました!今回はリスクの少ない基本の治療だけです。
さてアロペジア✕(毛周期停止)の治療には色んな方法があります。絶対に生やすぞ!と言う観点で言うと、トリロスタンが一番成績が良いです。これは基本的には副腎皮質機能亢進症での治療に使う薬です。「ポメラニアンでは85%で2カ月以内に発毛する論文」や「色んな犬種で100%に近い効果を達成している論文」もあります。
だったらそれを使うのか?と言うと、僕は丁寧にご説明した上で「基本的には使用しない」事がほとんどです。なぜならば、基本的に脱毛するだけの病気に対して副作用のリスク・費用・オーナー様の投薬リスクが見合わないと考えているからです。 それでもアロペジアX(毛周期停止)では二次性に膿皮症が発生してトラブルを起こしますし、発毛して欲しい!と言うのは切実な願いです。万策尽きてもご希望が有れば丁寧に説明し、定期的に検査をしながら安全第一に使用させて頂きます。
アロペジア✕の治療では副作用・侵襲度(痛みや麻酔)・費用等を相談の上で10以上ある方法の中でそれらを組み合わせたりしながら一緒に考えてご提案をします。治療には時間も必要です。トリロスタンなら適切に使用したらすぐに生えますが、他では生えても半年位は必要な事も有ります。そして例え発毛しても最初に有効だった方法(不妊手術・マイクロニードルも含め)や薬・サプリが有効性を失う事も多いから、その点もちゃんとオーナーさんにお伝えしておく事が大切です。
逆に治療しない事もあります。欧米ではアロペジア✕(毛周期停止)の治療はしないで可愛い服だけ着せてあげて、皮膚のトラブルが起こったら対応してあげるだけな方法も標準的な対処方法になっています。僕はそこに苦しみが無ければ「それも全然良い」と思っています。
その辺も全ては一緒に病気との付き合い方を考える事が基本になっているので、僕自身が「絶対に生やすぞ!」と言うスタンスだけでは不幸を産むかもしれないと思って注意をしています。他の病気の治療でも基本的には同じかも知れませんね。
今回は皮膚病より優先して別の病気の確定診断をして頂いたのですが、ご家族の皆様がご理解頂いて迅速に動いて下さり、本当に良かったです。 皮膚科はもちろん大事ですが、総合臨床認定医でもあるので大局的な視点からも病気の診断と治療をしたいと常に思っております。
■病歴:
発症は3年前からなので4歳過ぎ、主訴は脱毛と痒みですね。頭頂部と手足は発毛していて、体幹が脱毛しています。膿皮は無いです。皮膚はやや乾燥気味で、ちょっとキシキシした独特の毛の質感です。
■初診時:
問診や視診で言えばアロペジア✕(毛周期停止)はかなり怪しいです。
更に前の病院で甲状腺機能低下症も否定されています(でも数値としては正常低め)。ただ、この子は甲状腺のお薬を投薬されています。これに関しては確かに「甲状腺ホルモンが少なめだと発毛し難いだろうから投与しよう!」って先生もおられます。
確かに一つの方法だと思いますが、二次的な原因で甲状腺が減る事も多いので注意ですし、自分で出せるのに外から投与する事で自分で出す能力が低下する可能性も有りますし、動悸が激しくなったり等の副作用も無くはありません。 ですので僕は基本的には「甲状腺機能低下症」にだけ甲状腺の治療薬を使う方向にしています。
さて症状です。
背中です
胸です
お尻です
確かに典型的な気がしますし、何とか発毛して欲しい願いは痛いほどに分かります。毛が無い事で膿皮症になり易くなり、結果として痒みの症状も出ますしね。 この子は膿皮症は無いので痒みはありません。え?痒みがある?それが悩みの一つ??アロペジア✕(毛周期停止)となると膿皮症が無かったら痒くないはずですが・・・。それは甲状腺機能低下症だとしても同じはずです。
確かに一番痒いと言う首元を掻いてあげると、物凄く掻く動作をします!あれれ?でも実際には掻いて無い様な・・・。問診でも日常の痒みレベルはかなり低く、痒みは発作的に発生するご様子でした。
それに太っていて動かないのかな?と思ったら、どうやら神経学的検査をすると右を中心に不全麻痺をしている様子です。
もちろん皮膚科は大切に思っているのですが、この子の場合にはもっと優先される検査と治療があります。それは頸部の神経学的な検査と治療です。恐らく首の掻く動作は「頸部の違和感(痛みやピリピリ感?)等が引き起こす「ファントムイッチ(ニセの痒み動作)」の可能性が高く、その原因としては「脊髄空洞症」が一番多いと考えられました。 京都には御所南に日本一と言っても良いペットの神経科の先生がおられますので、早速ご提案しました。
皮膚科で遠路はるばる来院しているのに、すぐに「神経科に行ってくれ」と言われてしまっては「え?何言ってんの?」となっても不思議では無いのですが、本当に熱心で素晴らしいご家族でした。 大切にして貰って幸せな子です。早速名医のいる神経病のセンターへMRI撮影に行って下さいました。
MRI画像です。脊髄髄質の右側寄りに中心管の拡大が認められる像(白い所)です。
左側が頭部です。頸部に異常(白い所)が認められます。
【病歴、神経学的検査所見、MRI 検査所見から、「脊髄空洞症」が本症状の原因である可能性が疑わ れます。頚部における椎間板ヘルニアは軽度であり、本症状の原因である可能性は低いと考えます】とのご報告を頂きました。
治療方針も投薬計画も頂き、これでアロペジア✕(毛周期停止)の治療に専念できます。もし脊髄空洞症によるファントムイッチの診断ができてなければ例え毛がフサフサになっても「何だかずっと痒いんですけど・・・」「マヒが進行して歩けなくなった!皮膚の治療のせいで?!」ってなるかも知れません。
アロペジア✕(毛周期停止)の治療を開始して3か月後・・・
かなりフサフサになってくれました!今回はリスクの少ない基本の治療だけです。
さてアロペジア✕(毛周期停止)の治療には色んな方法があります。絶対に生やすぞ!と言う観点で言うと、トリロスタンが一番成績が良いです。これは基本的には副腎皮質機能亢進症での治療に使う薬です。「ポメラニアンでは85%で2カ月以内に発毛する論文」や「色んな犬種で100%に近い効果を達成している論文」もあります。
だったらそれを使うのか?と言うと、僕は丁寧にご説明した上で「基本的には使用しない」事がほとんどです。なぜならば、基本的に脱毛するだけの病気に対して副作用のリスク・費用・オーナー様の投薬リスクが見合わないと考えているからです。 それでもアロペジアX(毛周期停止)では二次性に膿皮症が発生してトラブルを起こしますし、発毛して欲しい!と言うのは切実な願いです。万策尽きてもご希望が有れば丁寧に説明し、定期的に検査をしながら安全第一に使用させて頂きます。
アロペジア✕の治療では副作用・侵襲度(痛みや麻酔)・費用等を相談の上で10以上ある方法の中でそれらを組み合わせたりしながら一緒に考えてご提案をします。治療には時間も必要です。トリロスタンなら適切に使用したらすぐに生えますが、他では生えても半年位は必要な事も有ります。そして例え発毛しても最初に有効だった方法(不妊手術・マイクロニードルも含め)や薬・サプリが有効性を失う事も多いから、その点もちゃんとオーナーさんにお伝えしておく事が大切です。
逆に治療しない事もあります。欧米ではアロペジア✕(毛周期停止)の治療はしないで可愛い服だけ着せてあげて、皮膚のトラブルが起こったら対応してあげるだけな方法も標準的な対処方法になっています。僕はそこに苦しみが無ければ「それも全然良い」と思っています。
その辺も全ては一緒に病気との付き合い方を考える事が基本になっているので、僕自身が「絶対に生やすぞ!」と言うスタンスだけでは不幸を産むかもしれないと思って注意をしています。他の病気の治療でも基本的には同じかも知れませんね。
今回は皮膚病より優先して別の病気の確定診断をして頂いたのですが、ご家族の皆様がご理解頂いて迅速に動いて下さり、本当に良かったです。 皮膚科はもちろん大事ですが、総合臨床認定医でもあるので大局的な視点からも病気の診断と治療をしたいと常に思っております。