(アレルギーの症例:25)よくある「柴犬」「アトピー」「シャイ」それと・・・
ワンちゃん 柴犬 初診時:8歳
病 歴:
他府県の大きな病院で5年間皮膚病のケアをしていた子です。アトピー症状は3歳位から出現し、抗体やリンパ球の検査もしたりして頑張って投薬しているのですが、続く皮膚症状に悩んでおられる子です。ですが、ずっと治らないわけでは無く、ステロイド等の投薬には反応してくれている様子です。「柴犬」「アトピー」「シャイ」と典型的に出会う難治性皮膚病のタイプの子です。治すと言うより治してからの維持が大切ですが、どんなポイントがあるでしょうか?
初診時:
皮膚症状は頭部・顔面の脱毛や発赤・痂疲(眼の周囲は多いですが、鼻の上やオデコは珍しいです)や軽度の外耳炎、お腹や肛門周囲・陰部の発赤と脱毛と色素沈着と苔癬化(皮膚が分厚くなる)、柴犬に特徴的に大腿部に目立つ手足の発赤と脱毛(ただし肘やヒザ周囲にもある)と全身的に症状がありました。
顔面です。目周りの脱毛は典型的ですが、鼻の上部とオデコは・・・?
右胸を横から 同じく左胸です
腹部です
右大腿部後部です
尾の付け根から肛門と陰部周囲です。かなり苔癬化しています。
問診や症状的には「3歳未満の発症歴」「屋内飼育」「(前)肢の症状」「外耳炎」「耳介辺縁に症状が無い」「腰部に症状が無い」「ステロイドに反応する」事から、世界標準のFarvotの診断基準からは8項目中の7項目が合致し、6項目でも感度58.2%かつ特異度88.5%でアトピー性皮膚疾患と言えます。
でもそれだけで良いのでしょうか?
まず大切な事は常に感染症を除外する事です。この子の場合は「肘と膝に症状がある」事が少し気になりますが疥癬ダニも大丈夫そうです。ですが、疥癬ダニアレルギーだと検査をしても少数寄生で分からない事はあるので試験的駆虫はさせて頂きます。
それだけで治療に入るのでしょうか?
難治性の場合は特別な病気も考えないといけません。この子の場合は鼻の上部にも症状があったので、念の為に「落葉状天疱瘡」「甲状腺機能低下症」の話もしておきます。いきなり検査までするか?と言えば、今回はそれ程では無いのでしなかったのですが、全く話もしないで後から「うむ、実はこの病気かも!前から疑っていたんですけどね~」とお話をしても「・・・ほんと😒?」となるからです。ですので当院では最初にできる限りメモにて形に残る様に治療方針をお話してスタートします(後日このページで報告しますが、そうしないと後々で大変困る症例も・・・)。
それだけで万全!・・・ではありません。
実はこの子の眼周囲の症状に関しては重度のドライアイも関係していました。検査すると殆ど涙が出ていませんでした。アトピーの症状としては矛盾が無かったのですが「あまりに酷いなぁ」と言う時は別の病気を確認しなくてはいけません。もちろんドライアイにプラスしてアトピーでも目の周囲は悪化しているのですが、皮膚だけ治療しては不十分になります。
さて、そうやって治療開始ですが単にアトピーでも「柴犬」「シャイ」なので単にアトピーを治療するだけでなく配慮する事が色々とあります。それは内服でも外用でもあります。また治療の際の内服・外用も苔癬化していると通常通りにしても反応が悪かったり遅いので、それらの局所的な事に関してもきちんと配慮します。この辺はオーダーメイドと言えるので詳細は割愛します。
さて1カ月半です。2週で内服は漸減しました。予想通り洗うのは難しかったみたいですが、それ以外はちゃんとして下さいました。
治療に際しては「その子の得意な事、ご家族のできる事」があるので、それを踏まえて色々とご提案する事が大切です。
鼻の上はまだ少し脱毛していますが、お顔はとても綺麗です
胸もフサフサとしています
まだ生えている途中ですが、良いですね
大腿部は最後まで症状が残る事もありますが、良い感じです
肛門周囲はまだ色が付いていますが、こちらも良い感じです
さてこれで治療を止めてしまって良いのでしょうか?残念ながら治療を止めると元に戻ります。かと言って身体や費用の事を考えると同じ治療はできないので、それを最小限度にしながら維持しますが・・・半年位で少し悪化しました。なぜでしょう?これはその前の問診でも疑っていたのですが、次の悪化でハッキリしました。この子は発情の周期で悪化していました。これは時々あると実感しています。人間の女性でも生理の周期での肌荒れ等があるみたいですが、精神因も含めて性周期は要注意です。この辺のアドバイスも周期を丁寧に把握したら可能になります。本来ならば避妊手術をしてしまうのが一番簡単かも知れませんが、その点は考え方なので難しい所です・・・。色々な外的内的要因を把握してケアして病気とお付き合いするのが大切です。
さてちょっと悪化も挟んで来院から5カ月後
お腹もフサフサお尻もピカピカです
この子は食事に関しては「一応は」アレルギー検査結果に基づいて制限はしていますが、あんまり関係無いかな?と思って「色々と食べないで今の食材で合っているか把握できる様にする」程度のアドバイスになっております。最近は日頃のスキンケア(保湿)に加えてファイナルアンサーに代表される腸活(腸内細菌を整えてアトピーをコントロールする)もアドバイスをしておりますが、残念ながら最新の論文でも「腸活でアトピーが治る!」まではいかないです。あくまで「薬の使用量が減る」「皮膚以外にも良い事がある」と言うスタンスでお勧めしております。また質の高い論文できちんと検証されている事が大前提ですが、腸活に関しては使用細菌も含めて色々な方法があるので費用が高くなる大型の子はファイナルアンサーに限らず有意義と思える腸活方法を費用的にも使い易い方法でアドバイスしております。
とにかく「アトピー➡内服!」でなく「ほんとにアトピーだけ?」「内服以外に何ができる?」を常に忘れないで「治らない病気をコントロールするからこそ、手間や費用も含めてご家族と共に生活の質を上げて過ごせる」方法を色々とご提案したいと思います。最終的には治療とその維持はご家族にかかっているので、いつも一緒に考えて治療してくれるご家族に感謝しております。