(アレルギーの症例:26)猫の頭頚部掻把痕は本当に色々です

ネコちゃん MIX 初診時:4歳6か月

病 歴:

昔にコクシジウムに感染しましたが、今は特に有りません。3~4日前に症状に気が付いたそうですが、あまり痒くは無いかな?とのお話でした。今回は過去に出した症例の子にも関連して、猫さんの頭頚部掻把痕の症状の子で違った報告を書いてみます。

初診時:

ほぼ痒く無い(ご家族の判断だと「VAS」と言う主観的な問診のスケールで10段階の痒みなら1だそうです)との事でしたが、どう考えても舐めています。舐めているか?は毛を抜いて先が裂毛(舌で舐め切られている)を確認したら即分かるのですが、猫さんは日頃から始終身体をペロペロとしているので分かり辛い事があります。問診は信頼しつつ探りつつ行う必要があります。

猫の舌はザラザラですので、舐める刺激も大きいですが、それ以上に猫の皮膚(特に頭頚部、関係無い!と言うデータもありますが)には好酸球や肥満細胞が多く炎症反応も起こり易いです。結果として舐めて脱毛する「外傷性脱毛」そしてブツブツができる「粟粒性皮膚炎」、赤い部分ができる「好酸球性肉芽腫群」「頭頚部掻把痕」と言った典型的な症状が出来やすくなりますが、逆に症状から病気を診断する事は基本的に難しくなります。

ですので「頭頚部掻把痕」が有ったとしても、大きくジャンルに分けて

感染・寄生・物質が原因:ブドウ球菌・皮膚糸状菌・ノミ・蚊・ミミダニ・疥癬・ニキビダニ・ヘルペスウイルス・付着物

アレルギーが原因:アトピー様皮膚炎・食事誘発性・蚊アレルギー・接触性アレルギー・FASS(非ノミ非食事性のアレルギー)

その他の原因:心因性・腫瘍・自己免疫性

皮膚以外の原因:頸部痛・外耳炎・中耳炎・内耳炎・口腔トラブル

等の4つを大まかに考えなくてはいけません。当然それらは時に併発もします。ですので、問診と共に簡単な基本的検査や試験的な駆虫は必須になります。この子の皮膚炎部分からは好酸球は沢山検出されましたが、カビや球菌は検出されませんでした。

さて過去に報告をしていますが、

感染の症例➀(糸状菌ですがアレルギーもある)

腫瘍の症例⑪(ボーエン病)

アレルギーの症例㉑(に書きましたが、5割は有ると言われるブドウ球菌の感染の併発)

など、同じ様に首元に赤い病変ができても色々とあります。今回はどうでしょう?

「経過」「家で単頭飼育で外出しない」「痒みはある(ご家族の人の意見とは違いますが、実際は・・・)」「皮膚の外見・分布(赤いだけで分泌物が無い等も含め)」「他の部分の様子」等からFASS(Feline atopic skin syndrome:猫のアトピー性皮膚炎)の可能性も高いが、何か一時的な要因である可能性も高いと判断しました。

よって健康な猫さんですので、リスクのお話はして初期にはステロイドをガツンと使いますが、典型的な2~4週の高用量からの1~3カ月の寛解維持へのコントロール・・・では無く「本当に短期間2日だけステロイドを高用量で使用して、試験的な駆虫とステロイド外用をして抗ヒスタミン投与(犬よりは有効とされる種類と使用方法があります)」を行ってみました。ネコさんでは食物有害反応の可能性は3~6%(痒みを伴う皮膚病だと1~2割)で心因性は更に可能性が低いので、両方はとりあえずスルーです。

さて1週でかなり炎症が収まり、20日でステロイドは3日に1回となり、発毛しだしました。

ここで治療は止めてはダメです!

2か月後にステロイドは4日に1回になり完全に発毛して症状も消えたので投薬を終了しました。その後問題ありません。

 

引きの写真です。

毛色がちょっと変わりましたが、これは時々あります。犬だとプードルさんやシュナウザーさんは多いですね。

今回は本当の意味でのFASSでは無さそうですが、再発には注意が必要ですね。過去には引っ越しや暖房器具の変更で再発したり急速に治った症例もいます。猫さんの皮膚病には最初にはしっかりとステロイドを使う事も必要な事が多いですが、漫然と投薬を続ける事が無い様に気を付けています(心臓病で死んでしまった症例も報告されています)。

ですが基本的には規定のステロイドの薬用量で8週投与したら97%が改善しますが、14%しか完全休薬はできないと報告されています。また中にはステロイドではコントロールが難しく、どうしてもシクロスポリン等の免疫抑制剤まで使わないとコントロールできない子もいます。

常に治療反応と副作用を観察し、ご家族と相談しながら丁寧に治療するのが皮膚科の醍醐味だと思っています。