(アレルギーの症例:28)アトピーで手足先が難治性になる事・・・多いですね。

ワンちゃん 柴犬 避妊雌 初診時:7歳
病 歴:過去の病歴は特にありません。今年の夏から皮膚が寝ていても痒く(痒みの指標:PVAS10段階の6)特に左後肢が悪化してきて治らない、との事でした。
柴犬➡季節性の痒み➡ピコーン💡!アトピーだ!!
・・・と言う単純な事ではありませんので、まずは問診を重ねます。診断過程は「感染症の症例:19」も参考にして下さいね。
それから視診です。話も聞かないで診察する事はありません。もちろん見た瞬間に「あ、これだろうな」と言う典型的な病気が推察される場合もあるのですが、その診断が正解でも「それだけじゃない」「そこだけじゃない」と言う併発パターンも多いです。
さてこの子の症状はどんな感じでしょうか?今回も上海で使用した僕の講演のスライドを活用しつつ書いてみます(スライドは200枚以上ありますので、今後の症例報告でも使っていきます。ただし、科学である獣医療の進歩で後日に話が変わる事は多いので、あくまでもスライド使用時の最新情報である事を御了承下さい)。
お顔は口周りなど典型的なアトピーと言う感じですが、それほど酷い脱毛や色素沈着もありません。
下腹部は股に間擦疹が慢性化して色素沈着していますし、周辺には発赤や丘疹があります。二次感染はありそうです。
陰部周囲は・・・これは相当年季が入っていますね。皮膚が分厚くなり(苔癬化)色素沈着して、いわゆる象皮症になっています。
かなり慢性的に症状が続いてきている事が分かります。
問診と全体的な視診から、主因としてアトピーはありそうです。(CAD:犬アトピー性皮膚炎)
アトピーだとしたら「慢性期」「重度」の治療方針を選択する必要があります。そうです、アトピーだとしても「イコールこの薬をする」と言う単純なのは現在のガイドラインにはありません。時期や病気により治療内容を選択します。
急性期と慢性期では別の病態があるのです。痒みの感じ方すら厳密に言うと異なります。
もちろん慢性期でも外用ステロイドは使用しますが、それをメインにしても治りません・・・と言う事です。スキンケアや腸活も同じです。時期や程度によってはイヤでも積極的に投薬する時期があるのです。
さて問題の一番酷いと言われる左足は?
なるほど、これは酷いです。ただ「この左足だけが特別に悪い」理由を考えなければなりません。非対称性な場合には感染や腫瘍があるのかも?とも考えます。
問診で「鴨川の散歩をしている」との事だったので、アトピーの投薬に並行して寄生虫の試験的な駆除を行い(これは検査何回もするよりも正しい試験駆虫が一番です!正しくしないと意味は有りませんので一般販売の駆虫薬では力不足です)、足先の検査は真菌培養同定までしっかりと行いました!
主因と思われるアトピーの治療は最初は内服を積極的に行い、外用療法もかなりしっかりお願いしました。
ただし!この子は柴犬あるあるで「シャンプーが大嫌いで洗えない」との事でした・・・大丈夫です。それならそれで色んな手がありますので!ベストでなくてもベターの提案を複数してベストに近づけるのが認定医の力量が問われる場面だと思っています。
幸いにも熱心なご家族でしたので内服2種類・外用療法2種類をしっかりして下さいました。ちなみにステロイドの外用薬だけでも色んな種類があります。また、最近はノンステロイドの外用薬も多いです。この辺は選択と使用方法が大切です。
さてやっぱりですが足先からは代表的な土壌菌のTrichophyton種(顕微鏡では分かり辛く・ウッド灯では光らない)が培養同定で見つかりました。ですがTrichophyton mentaglophytesと言う問題を起こす代表的な種類か?迄は同定できませんでした。真菌に関しての治療・アドバイスも適切に行います。
抗真菌薬を飲ませるか?と言うと必ずしも飲ませません。ケトコナゾールを未だに飲ませている病院もありますが・・・。皮膚科で転院時に何をどれ位内服しているか?も把握していない(説明されていない)ご家族の方も多いですが、皮膚科に限らず大切な我が子の為に「何の為に何の薬をどれ位飲んでいるか?」をご確認下さいね。
さて1週で痒みはVAS6➡1と急速に低下しました。掻かせない舐めさせない、これはまず入り口ですが成功です。
問題は慢性化した皮膚を治せるか?です。アトピーはかつては「単純なアレルギー」として捉えられていましたが、今は「皮膚バリア機能や皮膚の細菌構成の異常」など総合的な問題と言われます。
象の様な皮膚では健常な皮膚環境は維持できないので、すぐに再発してしまうのです。さて一緒に頑張り2カ月弱・・・。
良いですね!お顔はご家族自慢の美人さんに
お腹も95点ですね。乾燥に気をつけましょう!
お股は80点でしょうか・・・やっぱり陰部周りは根気が必要そうです。ただ持続因子として「構造的に陰部が股に埋まっている」ので完治するのは難しいかも知れません(実際に最後まで残っているのはここです)。
さて問題の足です!完璧、100点ですね。季節性なのでアレルギーの内服も悪化のシーズンが終われば終了できました(翌シーズンにまた開始です)。でもスキンケアとかは続けておいた方が良いですね。ちなみに食事に関しては何にも変更していません。
(CAD治療とは犬のアトピー治療の事です)
とにかく大事なのはご家族の熱意です。これ無しでは獣医師が何を知っていても役に立ちませんので、頑張って学んで治療してくれるご家族には感謝しか有りません。より理解を深めて一緒に治せる様に、当院でご家族向けに無料で皮膚科のセミナーを開き資料を配布をしようかな~と最近思っております。