(アレルギーの症例:5)柴犬には多い犬アトピー性皮膚炎、重度で末期!でも洗うのは大変・・・。
■犬:柴犬 初診時9歳2か月 オス
■病 歴:去年夏から急激に悪化、抗生物質やステロイドを飲んでも薬用シャンプーで洗っても、アミノ 酸食で食事療法をしても悪化して、毎日痒くて寝れない位!元気も無くなってきた・・・。
■初診時:久しぶりにここまで悪い子を診た・・・と言うレベルです。皮膚は悪くなると段々と色が黒くなってきて(色素沈着)、分厚くなってきますが(苔癬化)、もう末期的です。 これは痒みを止めてあげられたとしても、無事に普通の皮膚に戻れるだろうか?と言う位です。
胸からお腹です
余りに悪い為に全身のリンパ節が著しく腫れています。これは細胞診断をしても良いレベルでしたが、炎症が強いので皮膚炎が治ると共に改善するかを様子を見る事にしました。 後は男の子なのに乳頭が大き過ぎるのも気に成り、性ホルモンの問題も考慮すべきかと思われました。ただ、これも皮膚が悪すぎて肥厚していますので、まずは経過観察です。
■経過:さて、これ位に皮膚が悪いと通常以上にスキンケアを頑張って頂く必要が有るのですが、この子は洗われるのが大の苦手だとの事・・・(柴犬は多いですね)。それでもできる方法として、シャンプーとは関係無く塗ったりスプレーして日々できるスキンケアをして頂く事にして、後は他の治療を併用して頑張ります。できない事にこだわる必要は有りません!
アトピーの治療はできる事の総力戦です。内服薬(これも色々な薬を併用したり使い分けます)、外用薬(これもステロイドだけでなく色々と有ります)、食事(安易に食事アレルギーと言われ る事が多い様ですが、実はそれ程有りません。むしろ栄養的な観点から皮膚を改善する場合も有ります)、サプリメント(色々と有りますが、実証されているモノをお勧めします、一番無駄なお 金を使いがちです・・・)、スキンケア(洗う事は大切ですが、洗わなくても出来る事は沢山有ります)、環境改善(寝る場所・オモチャ・散歩コースetc.)、ストレス改善等・・・本当に色々 とできる事が有りますので、得意な事を相談して組み合わせる事が大切です。
この子の場合、スキンケアは苦手ですが、食事は容易に変えられるのでひとまずアミノ酸食にしておきます。これは食事アレルギーだからではなくて、その可能性を除外する為です。 そして甲状腺の数値が下がっていたので皮膚炎からの二次的なものかも知れませんが、甲状腺ホルモンを補充しました。二次的な事にせよ下がっている甲状腺ホルモンを補充した方が皮膚の治 りは早くなりますので皮膚科の専門医はよくこの様にします。また甲状腺の数値が低い為にステロイドは使用したく無いので、アトピーの新薬である「アポキル」を使用しました。
このお薬はステロイドと同じ効果と即効性で、副作用が著しく少なくなる夢の新薬です。分子標的薬と言って、痒みに重要なIL-31と言う物質の働きを抑えてくれます。もちろん痒みは 可哀想だから抑えるのですが、実は「痒い→掻く→炎症→掻く」と言う悪循環のサイクルや、痒みを感じる神経が皮膚に伸びてより敏感になる事を断ち切る事が非常に大切です。(ただし原因 を考えないで無闇とアポキルを投与するのは費用面からもオススメできません。)
その悪循環のサイクルを強制的に断つ事で皮膚をもう一度良い状態にして、最終的にはお薬に頼る面を減らす計画です。ですので、この子に関しては標準量より多く薬を飲ませる事なども同 時に行います。こういう細かな治療方法の選択が大切になってきます。
すぐに皮膚の痒みは殆ど無くなり、安眠して元気に走り回ってくれる様になりました!それでもあれ程の皮膚はもう発毛もしないかも・・・と思いつつ、2か月が経ちました。
どうでしょう?最初の写真と見比べてみて下さい!皮膚と色が薄くなり、発毛しています。もちろんまだ完ぺきでは有りませんが、最初を考えると本当に凄い回復です! 当院では来院の患者様とはメールで相談もしているのですが、それも積極的にして頂ける熱心なご家族のご協力があってこその素晴らしい結果だと思っています。
ただ、リンパ節の腫れは消失したものの、これだけ皮膚が良くなっても乳頭が大きめである事や、改善はしていますが貧血が治り切らない事などから、性ホルモンの問題がある可能性も有ります。 ですので、ゆくゆくは去勢しての反応を見る事も大切かも知れません。とにかく皮膚病の原因は単一で起こっているとは限らず、改善していても油断は禁物です。
またやっぱり洗うのは簡単では無いので(もし洗えたらもっと改善しているとは思うのですが)、食事やサプリの力で中からの改善をより目指す方向性もご提案しています。アトピー性皮膚炎で しかも慢性・末期で100%治る状態では無くても、負担に成らない範囲で出来る事を重ねて、ご家族と御相談しながらより快適な生活を目指したいと常に考えております。
この子は約半年でここまで回復できました!もちろん痒みもほぼ有りません。最近はお互いにスキンケアも慣れて良い循環が産まれてくれています。