(アレルギーの症例:9)犬アトピー性皮膚炎はまれに完治を目指せます!
■マルチーズ 初診時5歳11か月
■病歴:2歳位からの手足中心にかゆみ(10段階で7~8と重度)を伴っての皮膚炎 を繰り返す。ステロイドとか抗生物質を飲んでは止めて・・・の繰り返しで悪化、と 言う多くあるパターンです。
■初診時:全体に貧毛(毛が少ない)、両脇の脱毛・発赤・苔癬化(分厚くなる)・フケ 左股も同様の症状が重度。両耳も外耳炎。
↑左脇
↑左内股
残念ながら苔癬化していると治るのには根気が必要です。経過と症状的には手足も舐めていて典型的にアトピーですが、部分的に非常に悪いのも気になります。 アトピーにおいては他の症例で書いている様に「感染の除外」「色んな療法(内服・外用・食事・環境・・・等)の総力戦」が必要です。そして療法に関しては我流ではなく、あくまで世界的に立証されたガイドラインを熟知して、土台にする事が大切です。
その中でアレルギー検査を用いる事が有ります。現在のアレルギー検査は日本では動物アレルギー検査株式会社様で一番信頼性がおける検査が可能ですが、それでも「大切なツールの一部」と位置付けています。本人の症状や経過を診ないで結果だけを使っても、間違った解釈になる事が有るからです。
今回の場合はかなり悩まれて難治性ですので、総力戦の一部として減感作療法を念頭に早々に検査をしました。減感作療法自体の正確な機序は不明な点も有りますが、ヒトはもちろん犬でもガイドラインで認められた療法であり、唯一の根治療法になります。
減感作療法は色々な方法や製剤が有りますが、現在日本で安全・簡単に使用できるモノとしては「アレルミューン」と言うハウスダストマイト(チリダニ)に関しての減感作療法になります。https://www.genkansa.jp/about/
それ以外は煩雑さ・高価・副作用・成果の不安定さ等を納得して、個々の先生と患者さんの判断で行っているのが現状です。
ただし現実問題としてはアレルミューンであっても、それらのハードルは有り、その為に商品の出始めにたくさん実施した結論として、治療対象は厳密に選ぶ必要が有ります。慢性化の度合い、犬種などコツは色々と有るのですが、その中の1つが検査結果です。
この子の検査結果
ヤケヒョウヒダニ | コナヒョウヒダニ | ペニシリウム | アルテルナリア |
49 | 68 | 121 | 87 |
*数値は基本的に多い程要注意で「100からが要注意」「500からが陽性」です。その他合計40項目有りますが、全てにおいて陰性の領域(100以下)でした。 ちなみにこれはIgE抗体の検査で、食事の判断には別の検査方法も利用します。
検査センターの「結果より推定されるアレルゲン」には当然カビ(ペニシリウムやアルテルナリアはどこにでもいるカビです)にチェックが入っています。ダニは無し・・・。 この子はエアコンの掃除等をしてカビに気を付ける生活をすれば良いのでしょうか?
違います!
実は検査ではDerf2特異的IgEと言う別項目が有ります。これはチリダニの身体の一部のDerf2抗原への検査です。これに対する減感作療法がアレルミューンです。
この子の結果:233ng/mlでは判断基準をみてみましょう。
感作が殆ど無いか軽度 | 感作は有るが、高くない | 十分に感作されている |
20ng/ml | 20~50ng/ml | 50ng/ml以上 |
すごく感作されていて非常に高い値です!これを見逃すと大変です!
「え?ヒョウヒダニに対して陰性だったのに・・・?
と、思った方はおられますか?
そうなんです、これに関しては検査会社の著名な大先生に長文でお教え頂いたのですが、コンポーネント検査とかシグモイド曲線とか抗体が生か組み換えか・・・等々の知識が全て分かって初めて納得できる事でして・・・割愛します(笑)。
とりあえず、普通の検査が陰性領域で、特異的な抗体の検査で非常に高い子は理論的には減感作療法の効果が非常に期待できる子になります!当院としては珍しく強く減感作療法を薦め、熱心なご家族様で信頼して頂き、無事に開始して頂きました。
とは言っても、この療法の成果が出るには1~2か月近く掛かります。その間はガマン・・・では無く、従来の療法は平行して行います。食事は敢えてノータッチです! 更に安全で効果的なダニ抗原への抗体スプレー等も使用して特別に環境対策もします。
↑右脇
↑左脇
かゆみはゼロになりました!苔癬化して分厚かった皮膚も色素は残るものの普通の柔らかい皮膚になり、炎症も無く発毛しています。
めでたしめでたし・・・。
ではありません!
アレルミューンは1週毎の注射を全6回して終了、それで効果が認められている療法です。しかし、アレルギーの根治療法としては実はこれでは不十分だろうと言われます。減感作療法ではIgE抗体と異なるIgG抗体が増えて痒みを抑える作用を経て、最終的に制御性T細胞(Treg)が誘導されて、根本的にアレルギーに関与するIgEの産生を抑える事がゴールです。この根治と言える状態を目指して実際にヒトでは1年かけて療法を維持するそうです。
イヌではどの様にそれをするか?はまだ検討中ですが、決まったプログラムの終了後に「ある決まった方法」で減感作療法を特別に継続する事で、それを目指します。
この様に気長に治療する時には短期間の効果と共に、適切な検査結果を交えて「その子その子の適性」を的確に評価して、予測して力を入れて継続する事が大切になります。 ご家族の皆様にはそれを御理解頂き、継続して益々良くなってくれています!
逆に減感作療法は費用も高価ですので、効果が期待薄な子には正直にそれをお伝えして選択して貰う事も大切です。