(アレルギーの症例:14)何かが背後にありそうで無かった難治性の子
ワンちゃん・トイプードル・避妊メス・初診時9歳11か月
病 歴:
1~2歳からの皮膚症状に悩んでおられます。
最初はステロイドが効いたご様子です。3年前に乳腺腫瘍の手術をしましたが、良性だったとの事。去年から年中脱毛するようになってしまって、脱毛が広がっています。最近はステロイドと抗菌薬と何か謎の粉を使用して治療をしている、とのお話。投薬無しでも多飲多尿を感じられるそうです。
もう1年以上治らないそうです。
初診時:
痒みの程度を表すVASスコアは10の内で2~5とムラがあるご様子です。お尻周囲や身体の下側の脱毛が目立ちます。何よりフケが多いです。お話だと軽そうにも思えましたが、自傷もあり本当は割と痒い気がします。 ご家族のお話は一番ですけど、視診で改めて考える事は大切です。
かなり酷そうには思えますが、段々とこうなった感じ(慢性経過)が強いので、見た目よりは痒くない無いのかも知れません。
治療経過:
病歴や症状からはアトピー性皮膚炎はありそうに思えました。ただ、去年からこじれてきたのが年齢からも背後に何か別な症状無いか?が心配です。
まず腰背部は大丈夫ですが、お尻回りの症状は強めなのでノミ予防を再確認です。
・・・ちゃんと予防されています。見た目にも居そうにはありません(ただしノミ糞を含めて、目に見えない形の感染が3割にあると言われます)。ですが、大昔にノミがいた経歴も確認ができたので、最新の薬での予防をお勧めしました。
お尻回りと言えば性ホルモンが気になります。
・・・避妊は済んでいます。まれにそれでも発生したり(遺残卵巣)、別の場所から性ホルモンが出る事もありますが、とりあえずは大丈夫そうです。
年齢からは甲状腺は気になります。他院での健康診断でも少なめだったそうです。
・・・当院でも行いましたが、検査結果はギリギリと言うところです。
他のホルモン病や内臓疾患があるかも気になります。
・・・少し肝数値が高めですが、2週前のステロイド投薬があった為かも知れません。これに関しては先々追加検査が必要かも知れませんが、ひとまず経過をみます。(のちにステロイドをしっかり休薬して、副腎の検査もしておきましたが、正常で安心しました)
これらを全て鑑別した上で「慢性化したアトピーの悪化とスキンケアの間違い」を病因と判断して治療を開始します。何かを忘れているとこの先違う道に踏み込んでしまうので要注意です。
食事に関しては反応を見るしかないのですが、吐きは多めなので一石二鳥のケアを考えたいところです。
今回のポイント
①ステロイドは悪くなった時だけ多めに連用していました。良い使い方でない典型パターンだと思います。謎の粉(ステロイド?)の影響かも知れませんが内服としても副作用は受けていそうな感じはしました。 慢性化しているので、少な目で間を空けつつも投薬を切らない事が大切だと考えました。 また肝数値からもステロイドよりもアポキルが向いてそうです。
②食事の関与は微妙ですが、肝臓と吐きが多めな事への一石二鳥の食事をご提案し、変えました。
③在宅のスキンケアが不足しているので、優しくですがしっかり継続して頂きます。フケが酷いので、全系統(大きく3系統)の保湿剤を組み合わせて使って、内服もして対応します。
④念の為に最新のノミ予防薬で試験的な駆虫もします(これは感染予防でもあります)。
⑤通常はよほど酷くないと肝疾患からの皮膚病は少ないですが、肝臓のケアをしておきます。
さて、どうなるでしょうか・・・?
フケは2週位で減って、発毛は1か月位で安定して生えてきて、3か月でかなり発毛してくれました! 毛の色まで凄く濃くなってくれました~!素晴らしいです! 吐く事も全く無くなったそうです。
毛がフサフサなのは分かると思いますが
実は黒光りした毛がツヤツヤ過ぎて写真が光で飛んでしまって、上手に黒く撮れないのです・・・。 ダーマカメラ、すっごく良いんですけど毛が乏しい人用なのでピントとかの調節が(;´Д`) 本当は下の写真の様に真っ黒な毛になってくれています!
フケもほとんどないです!色素沈着は慢性化してお歳になっていると、ある程度は仕方ないですね。
良くなると治療は減らしていきたいのですが、アトピーは治る事はありませんし、加齢で慢性化していると継続した治療やケアは必要です。でもここまで一度戻ると維持する手間は大きく減ると思います(ただし、何もしなくなると残念ながら段々と元に戻ってしまう事が多いです)。
特に慢性疾患では最初は大変ですので、愛情を込めてケアをして頂けたワンちゃんのご家族のお陰です。
その後の御来院で良い写真が撮れたので追加でアップします。益々フサフサの黒々です!