(ホルモン性の症例:9)同じ病気で典型的皮疹と初めて見る皮疹、同じ病気でも色々有って皮膚科は深い・・・

■ワンちゃん・フレンチブルドッグ・避妊メス・初診時約10歳
■既往歴:
保護犬さんです。元々の事は分かりませんが、ドライアイや膀胱炎、膵外分泌機能不全、足の乳頭腫等をケアして大切に暮らしてくれています(この子が保護されて本当に幸せなのが分かるお家でした)。1年前から脱毛してきたそうですが、痒みは無いそうです。手足は1年前から赤いブツブツがあり、半年前からは両肩に赤くてブツブツを伴った病変が出現しました。
近医様では「糸状菌(真菌:カビ)がいた」との事で抗真菌薬と抗真菌シャンプーをしていたそうですが、治らず・・・ウッド灯で光るからやっぱりカビかな?と言う事で更に外用薬も使うのだけど、治らず・・・で来院されました。
■初診時:
なるほど、これは肩に関してはアレじゃないかな・・・と思わせるルックスと場所です。同じ感じで左右対称両肩にありますし。
なによりこの病変で「痒みは無い」との話です。左肩の病変と、その拡大写真です。


右肩も同じです。

でも不思議なのはお腹の膿皮症と足先の症状です。お腹もポツポツと気になりますが、特に手足の先は・・・ひょっとして本当に難治性の糸状菌感染なのでしょうか?元の病気がアレなら二次的にそうなる可能性はあるのですが。

とにかくフレブルさんは手足の先にも症状が多いですからね!
さてカビに関しては真菌が光るウッド灯を使った検査をしていたそうですが、実はこれは非常に色んなモノが光ります。例えば普通のカサブタやフケも光りますし、ある種のクリーム等もよく光ります。
実際にカビが光っている場合もありますが、その場合は独特な光り方をします。が、それでも顕微鏡と培養で確認が必要です。要するに「ウッド灯で何となく光っているしカビだよね」で診察すると間違える事も多い疾患と言えます。案の定、院内の検査では到底カビとは思えませんでした。でも近医様がそれでかなり頑張っていたので、一応培養はしておきました(陰性でした)。
さて典型的である肩から細胞診をしてみます。細胞診をすると例えばこんな感じで鑑別する事ができますので、非常に大切です。

この肩の部分は典型的症状なので「黄色枠の写真の膿皮症」みたいに普通の膿では無いだろう自信がありました。

やっぱり!白い所から取れたのは膿では無く、ミネラルの塊でした。もうほとんど確定です。
恐らくは副腎皮質機能亢進症の皮膚石灰化です。当院のHPでも色々と載せていますが、知らない獣医師も多く誤診の多い症状です。
もちろん思い込みで突っ走ると危険です。鑑別としては「腎不全」「カルシウムが増える腫瘍」「肉芽腫疾患」など色々とありますし、特発性と言う場合もあるので全体的な血液検査が必要です。ご家族はご理解も熱意もあるので、全部させて頂けました。とても助かります。費用的に大変だからと最初に外してしまうと今後が大きく変わりますので・・・。
さて副腎皮質機能亢進症としたらエコーとかも必要ですが、一番確かな検査は何でしょう?以前は煩雑な血液検査からでした(今もする時もあります)。

ですが、今は便利な方法があります。尿検査です!「尿コルチゾール・クレアチニン比」を正確に検査したら一番楽に確かに分かります。この子はほぼ100%以上と言われる数値の3倍位でした・・・ほぼ確定です。他の検査と合わせてしっかりと併発疾患も考えて除外診断を丁寧にしますが、副腎皮質機能亢進症だけであればちゃんと治療をしたら治るはずです。
ですが・・・気になるのはお腹や手足の先の症状です。正直、見た目では分かりません。

「なんなんだ?やっぱりカビなのか??深部に感染していてウッド灯や培養では分からないだけか??」と考え続けるのは悩ましいので肩等の皮膚生検をお願いしました。愛情深い熱心なご家族なので許可頂きました。
なんと肩以外の部分も微小な石灰化による紅色丘疹や紅斑でした・・・初めて診ました。そうなると副腎皮質機能亢進症の治療だけで治るはずです!カビの治療は完全に終了してホルモン療法を副作用が起きない様に丁寧に投薬を行います。
そして半年が過ぎ皮膚は殆ど良くなりました。
初診から約1年後の安定して改善している状態が以下の写真です。
右肩と左肩です。


肩は綺麗になりました!
では手足は??

スッカリ綺麗です!副腎皮質機能亢進症の投薬だけで抗生物質や抗真菌薬はしていません。
治りきるまでは「副腎皮質機能亢進症⇒抵抗力の低下⇒感染症」もあるんじゃないか?と病理の先生を疑っていました。すいません!この子は肩の症状の半年前に手足の症状が出ていたそうです。そうなると最初の時点で僕が診察していても「ん?痒く無いしアレルギーでは無いだろうし、なんかの感染かな?痒みが少ないならカビはありだな」って思っていたかも知れないと正直思います。
もちろん凄く注意深く皮疹を観察して、検査を重ねたら最初から正解に辿り着けたとは思いますが、さすがに最初から皮膚生検で組織を診よう!とは皮膚採るのも可哀想で費用も掛かるし御提案できなかったと思います。
「二番目の医者は名医」と言う言葉がありますが奢らずに自分の経験と合理的な思考を深めたいと思います。そして最初に診察してからも継続して症状を診察させて頂ける様に安心と納得をご提供できる皮膚科診療でありたいと思っています(総合臨床認定医でもあるので他の診療科もですが)。現在、その為のツールとして従来の複写メモから分かり易いアイテムを製作中です!
この子とご家族は遠く大阪からご来院頂いていたのですが、いつも本当にホンワカ暖かくて楽しそうで、皮膚病の事だけで無く色々と想い出が一杯です。