(その他の症例:20)腫瘍切除の予定が迫って転院されました

■猫ちゃん:初診時3歳6か月 避妊雌
■病歴:特に無し
■初診時:2カ月前に他院にて皮膚病を受診されたそうです。その時の診断は分かりませんが、それから抗菌薬とステロイドの内服をしてステロイドの入った一般的な外用薬を処方されて治療していましたが、胸~腹の病変の一部が悪化して治らず「これは腫瘍かもね、切除して検査しましょう」と言われたそうです。誰でも手術はイヤですので、セカンドオピニオンも兼ねて来院されました。そういうのは凄く大切ですね。良いご家族です。
治療内容や経過を聞くと、恐らくは最初の痒み行動や皮膚炎に対してFASS(Feline atopic skin syndrome:猫のアトピー性皮膚炎)を疑って治療をスタートされたと思います。抗菌薬に関しては通常は不要ですが、猫の無痛性潰瘍や粟粒性皮膚炎で有効な事もあり試されたのかも知れません。
左の胸~腹の間くらいに確かにかなり大きな皮膚病変があります。
普通の皮膚炎にしては「深い」病変です。偉い先生が良く言われますが「皮膚科は平面でなく立体で考えないといけない」ので、この違和感は大切です。深いとなると潰瘍を起こし猫で多い腫瘍の「扁平上皮癌」を注意しなくてはいけません。なるほど、それで手術の提案をされたのかな・・・?あるいは次に注意すべき「肥満細胞腫」を想定されたのか?どっちにしても両者想定なら完全切除の為に、かなり大きな切除範囲を伴う手術になります。その辺を説明されてご家族は不安になったのかも知れません。
しかしながら傷の辺縁を見るとかなり滑らかで、典型的な感じがしません。むしろ褥瘡等に多い感じ?こういう時は細胞診です!
採取されたのは好中球と沢山のブドウ球菌・・・とりあえずは腫瘍細胞を疑う細胞はありません。
腫瘍であれば早くに切除した方が良いのは確かですが、どうにも腫瘍には思えません。う~ん、元の診断(FASS)が合っていて、その治療が不完全で舐めていて、猫のザラザラの舌で外傷性に始まり(通常は脱毛する位なのが多いです)ステロイドの内服と外用で創傷遅延しているのでは?と想定しました。あくまで想定なので、腫瘍だと困るし1週まで以下の治療での変化をみてみました。
➀カラーや服で絶対に舐めさせない!
②内服はステロイドも抗菌薬もしない(元々飲むのも苦手ですし・・・経過によっては持続性の注射で対応予定)。
③外用はステロイド総合外用(抗菌成分と抗真菌成分が入っている)は中止して、ゲンタシン軟膏(抗菌)とアクトシン軟膏(床ずれ・褥瘡等の治り辛い傷を血行を良化させる事で治す)を代わりに塗る。
お願いした事は以上の3つだけです。おっと、治療前に真菌の検査(ウッド灯)はしておきました。これは猫の皮膚病診察の基本です。さて1週後どうなっているのか・・・
え?治っています?って感じですよね(苦笑)?
でも治ってきていると僕は確信しました。肉芽(赤い所)の色や小さい病変の変化が「治っているよ~」と・・・でも恐らくこのままでは治りません!腫瘍を広げる可能性があったので前回は控えていた「放射状切開」を積極的にしました。これは創傷遅延の場合に上皮化(傷が元に戻る働き)がストップしてしまった皮膚の辺縁を刺激して治す方法で、床ずれ・褥瘡で行われます。ちょっと可哀想ですが太めの針で辺縁を放射状に小さい切込みを太陽が光を放射するみたいに360度切込みを作っていきます。大人しいと無麻酔でできます!この子はとても賢くて頑張ってくれました。
それから2週間後(本当はもっとこまめに沢山放射状切開をした方が良いのですが、ご家族の都合も勘案)・・・想定通りであれば改善予定です。改善して欲しい!
バッチリです!腫瘍として切除をしても「病理結果はただの外傷でした!腫瘍じゃなくて良かったですね~♪」ってなったかも知れませんが、その場合の不安や費用や何より猫さんの精神的・肉体的な負担を考えると、本当に手術しなくて良かった!と思いました。
元々のFASS疑いに関してはアレルギーの症例の26でも書きましたが、似た様な病気を含めて色々と鑑別が必要です。
➀感染・寄生・物質が原因:ブドウ球菌・皮膚糸状菌・ノミ・蚊・ミミダニ・疥癬・ニキビダニ・ヘルペスウイルス・付着物
②アレルギーが原因:アトピー様皮膚炎・食事誘発性・蚊アレルギー・接触性アレルギー・FASS(非ノミ非食事性のアレルギー)
③その他の原因:心因性・腫瘍・自己免疫性
④皮膚以外の原因:病変部の痛みや知覚異常など
ですので、しっかりとノミダニ予防をしつつ更に1カ月観察です。
もう発毛もして大丈夫ですね!とりあえずは治療終了です。
でもこの子は恐らくはFASSですので季節性に痒みが発生する可能性があります。その時に同じ病変を作らない為に上手に治療する必要があります。FASSではどうしても何らかの投薬が必要だからこそ身体に気を付けて効果的な薬を必要最小限にしなくてはいけません。たくさんの薬を使ったら治っても副作用が発生するかも知れませんので、当院に来られている方はメール相談も含めて密に連絡を取って一緒に考えて治療して下さっている方が多いです。メール相談をして下さる方は恐縮されますが、むしろ僕はいつも本当に有難く思っています。