(その他の症例:15)脂漏症と多汗症は違います!

ワンちゃん ボーダーコリー 避妊メス 4歳7か月
■病歴:
2年前から某皮膚科で「脂漏症」として診察をして貰っている子です。痒みはそんなに無いのですが(痒みの指標VASが10段階で3程度)、全体的に皮膚がイマイチで、特に首周りの症状がなかなか取れ無いそうです。 前医さんで最初だけ内服して(何かは不明)、その後病院オリジナルのシャンプーを頂いているそうですが治らないそうです。食事も色々と配慮して手作りをしたり頑張っておられます。 もちろん予防等も万全です。

■初診時:

病変は「うわ~!えらいこっちゃ!!」と言う感じでは無く注意して見ないと分からない感じです。

なので症例としてHPに載せるには変化が分かり難いのですが・・・。でも今回の様な「何だかチョット・・・」って場合こそ、ご家族には気になるものです。

見た目もですが、今回は臭いに特徴があります。脂漏症の脂っぽい感じとは異なる、独特の「サビっぽい」等とも言われる臭いがします。そして毛や皮膚がベタベタの脂漏症では無く「湿っぽく」毛がまとまった感じになっています。

分かり難いですが、毛の感じに着目して下さい。


首元です。分かり辛いですね。ちょっとアップにしてみましょう。



毛が何だか束状になっていますね。これは「砂糖水が付いた感じ」とも言われる犬の汗による独特のまとまりです。



その下にある皮膚は脂漏ではなさそうです。でも汗自体は人間でも放置されるとPHが上昇して細菌の増殖にもつながりますし、この子の皮膚も二次的な感染がありそうです。
現在のこの子の症状からは脂漏症には思えません。 もちろん洗った事で脂漏が解決している可能性も有りますが・・・。

【脂漏に対するスキンケア・治療】と【多汗に対するスキンケア・治療】は異なります。ですのでちょっと病状に合わせて修正してみました。

スキンケアの根本になるシャンプーの種類を変更し、更にシャンプーでなく沐浴(水で流す事)・入浴(入浴剤も)を推奨しました。

保湿はやっぱり大切です。しっかりとして貰いますが、無理に脂を落とさなくすれば自然に保湿能力も高まると考えました。 実は多汗症には特異的な治療はありません。逆に色々とシャンプーを頑張り過ぎると悪化も起こります。今回はそれが問題な感じがしました。

今ある痒みに対しては2週間ほどは痒み止めを使用して一旦は止める事をして、とにかくスキンケアを変えて、念の為に首元に接触する首輪を変更してみて・・・ 
 

例によって輝く被毛で写真が飛んでいます(苦笑)。


少し角度を変えて・・・毛がサラサラとして非常に綺麗です。

 
ほら首元の被毛も直下の皮膚も綺麗です(・・・分かり辛いですね、苦笑)! そして痒みは投薬しなくても指標VASが1(10段階の)と殆ど何もありません!

ヒトでは緊張や体質や時には糖尿病や甲状腺機能亢進症などの病気でも汗が多くなり多汗症が発生します。 イヌではヨークシャテリア・シュナウザー・シェパードが有名です。イヌで多い多い基礎疾患としてはアトピーがあり色々な論文では10%前後の報告率です。 この子の基礎疾患にアトピーがあるか?はまだ不明です(症状の季節性もありますので)。 脂漏症との併発もありますが、この子の場合はその後も「脂漏症の治療はしていないで問題無い」ので脂漏症では無いと思われます。 確実な診断としては皮膚病理を採って「汗腺の拡大」を確認するのが1つですが、酷い時は検査をして内服も検討しますが、今回はそこまで侵襲的な事をしなくても良いかな?と僕はしていません。

イヌの多汗症と聞いて「え?イヌは汗をかかないんじゃないの?」と思われる方もおられるでしょう。 ヒトが全身でかく汗はエックリン汗腺から出ていますが、それはイヌやネコでは肉球にばかりにあります(ですので病院で緊張した子たちは診察台に汗の可愛いスタンプを押してくれる事があります)。 ではイヌの多汗症では?これは全身に分布するアポクリン汗腺から生じます。ヒトだと脇などでアポクリン汗腺からの「いわゆる脇汗」が認められます。・・・となると独特の臭気などにも納得がいきます。ちなみにアポクリン汗腺からの汗にはタンパクやミネラルも多いので普通よりもベタベタとします。

ですがベタついても基本的には汗ですので、手についても水で流すとべたつきは消失します(脂漏との鑑別ポイントの一つです)。この子は脂漏症で効果的と思われる事をされていたのですが、今回の場合は逆に悪化させる要因になっていた様です。 最終的にはご家族のスキンケアにかかっているので、今回もお手入れ頂いて感謝しております。