(腫瘍の症例:15)ハムスターさんの扁平上皮癌

ジャンガリアンハムスターさん ♂ 初診時1歳10か月

病歴: 2か月前弱から皮膚炎で他院で塗り薬(オゾンクリーム?)を処方されて塗っている、治らない。


症状:右耳下に皮膚炎があります。

痛々しいし、痒そうですね・・・。

ハムスターさんにガーゼを巻いたり、舐めない様にエリザベスカラー(首に巻くやつですね)をする事は困難です。

また塗り薬は基本的に難しいです。塗れるか?と言う問題がありますが、大人しくて塗れても舐めちゃいます。

この子は本当に良い子なので「塗れて舐めなかった」のですが、逆にそれが問題を長引かせた可能性もあります。

最初の病院には皮膚科がありますので、ちゃんと皮膚の検査やエコーまでしてくれています。エコーは良く分かりませんが、もしかしたら皮下の問題の精査をしてくれたのかも知れません。オゾンの塗り薬は「?」ですが。

大人しい子なのでじっくり見れたのですが、どう見ても皮膚炎には思えません。

ただし、ハムスターさんは耳の問題や頬袋の問題が大きくて、常軌を逸して掻く事があります。通常は「塗り薬は難しいから、内服で抗菌抗炎をして様子をみますか」となるのですが、この時は所見からイヤな感じだったので、麻酔下での検査をご提案したら認めて頂けました。それで即日麻酔をして、少し針生検で検査です。もちろん耳や口や頬袋の問題が無いのも確認しました。こういうのも麻酔を掛けないと精査は不可能です。それはシャイな犬猫さんも同じで、時にそれで後手に回る事もあります。

検査の結果を待つ間は内服をしましたが、全く変わりません。

検査結果は「化膿性炎症ただし異形成扁平上皮増殖」との事でした。腫瘍との診断は出ませんでした。

でも炎症なら改善しても良いのですが、皮膚炎は悪化し可哀想に益々搔いています。腫瘍でも痒みを止める事は可能ですが、腫瘍(想定では扁平上皮癌)であれば先々は厳しいです。逆に扁平上皮癌なら取れれば助かります。

ハムスターさんに腫瘍の発生は多いのですが、困った事に寿命の後半になる2~3歳に多くなるので、手術の決断は難しいです。ましてや手術を決断しても手術中にヒトや犬猫みたいに術前検査や気管挿管や静脈点滴ができないので、コントロールできないリスクが大きいです。そして捕食される動物ならではの「疼痛での突然死」もあります。

手術の決断は難しいですが、約2週の内服の後に、ご家族は速やかに手術を決断して下さいました。悩まれたと思いますが、まさしく愛情だと思います。もちろん手術をしないで対症療法を色々とするのも愛情です。

ハムスターさんの一生は僕らよりも極端に短いので、このわずかの間に大きくなって手術の難易度は上がりました。でも犬猫と同じ保温システムや麻酔で可能な限り頑張りました。

術野には透明の手術用フィルムを貼っています。

右下が耳ですが、何とか何とか頬袋や耳下腺やリンパや大きな血管を避けて綺麗に取れました!本当にギリギリです。

出血も殆ど無く麻酔中も安定して呼吸をしてくれて、無事に手術を終えました。ちょっと皮膚が引っ張られるな・・・片目を閉じておいて皮膚が伸びる間は乾燥を防ぐかなぁ~等を考えていたら・・・あれ?呼吸をしていない!

残念ながら、無事に手術を終えたのですが、目を覚ましてはくれませんでした・・・。

ご家族には残念なお知らせをしなくてはならなく、こういう時本当に心も胃も痛いです。手術リスクはご理解頂きご覚悟も頂いていたので、ご寛恕頂きました。でも辛いです。もう病理検査に出す意味は無いのですが、病院として出させて貰いました。

これで「皮膚炎でしたよ」って言われたら不要な手術で亡くなった事になり最悪なのですが・・・。

結果はやはり扁平上皮癌でした。綺麗に切り取れていました。犬猫と同じく最初は皮膚炎と紛らわしいです。

この腫瘍は悪性ですが、遠隔転移する事は少ないので、早期であれば手術して終わった可能性はあります。ただ、本当の初期だと皮膚炎との区別にいきなり検査はしなかったとも思います。塗り薬はちょっと分かりませんが、それでも最初の獣医さんが凄く悪いかと言えば、難しいです。ただご家族には来院して当日の麻酔下の検査や、早期の手術など迅速に頑張って頂けました。腫瘍と共に生きて最後に悲惨な事になるのは避けれたとは思いますが、無事に成功しない場合は辛いです。

ご家族には「ハムスターさんの情報が少ないので是非載せて欲しい」とのお手紙を頂いたので、HPに載せました。ありがとうございます。写真を見ても大人しく可愛かったな・・・と思います。この子の前のハムスターさんまではかなり大きな腫瘍も無事に取れていましたが、今回の事で更に色々と学びました。活かして頑張るしか無いですね・・・。