(腫瘍の症例:3)普通の膿皮かな?乳腺腫瘍かな?と思ったら、皮膚型リンパ腫・・・

この症例の子は色々な意味で哀しい子でした・・・。
■わんちゃん フレンチブルドッグ 初診年齢5歳9か月 メス
■病歴:生後すぐから皮膚が弱いが、左足の内側にできもの?も発生した。

皮膚は非常に悪く、市販のシャンプーをしておられますが、カビ(マラセチア)が沢山繁殖しています。耳も脂漏症で可哀想な状態でした。

 

できものは早速針を刺して細胞診断してみましたが、非常に固く結合織ばかりで、細胞は何も採れませんでした。抗生物質で小さくなるか?を確認してみる事にしました。
2週後、フケやかゆみは著しく減りましたが・・・できものが大きくなっています! しかも一見よくある膿皮に見えますが、少し気味の悪い感じの赤い小結節~結節が多発しています。乳腺も腫れているのですが、ちょっと普通に見えません。
 

細胞診断をすると、全てから共通で(普通こんな事はありません)イヤな細胞が採れてしまいました・・・。日本でも有数の病理の先生に診て頂き「皮膚型リンパ腫」との診断を頂いてしまいました。犬リンパ腫クローン性解析でもT細胞のクローン性が確認され、確定には組織診断しか無いのですが、病名はほぼ確定してしまいました。


皮膚型リンパ腫は動物では殆どT細胞の上皮向性リンパ腫で、人の菌状息肉腫に相当すると考えられます。これは発症末期に病変が茸状に盛り上がる事から名付けられますが、それ以前に緩やかに進行するのが特徴で最初は普通の皮膚病にしか見えない「紅斑期(多発性の紅斑とフケ)」を経て「局面期」「腫瘍期」と進みます。初期には分からないので、確定診断される頃には中~末期になる事が多く、確定時から一気に悪くなる事が多いです。治療法も色々と有りますが、どれも完治は難しく確定診断されてから死亡までの平均期間は最近の報告では6.3ヵ月です。ただ、もっと短い子もいれば、2年以上頑張ってくれる子もいます。

この子もだいぶ前からリンパ腫であったとは思いますが、当院の初診時でも細胞診断では細胞が採れず、その2週後に再度した細胞診断で確定診断が下されました。

丁度この頃に多飲多尿が起こり始めたのですが、基本的に皮膚型リンパ腫の症状では無い為に、避妊していない犬に多い子宮蓄膿症の事も含めて再度総合的な診察をお勧めしたのですが、僕の力量不足で色々と検査させる病院と思われ過ぎたのか、皮膚型リンパ腫の症状の説明が非常に厳しかったのでしょうか、・・・残念ながら元々通っていた病院に戻ってしまわれました(やはり子宮蓄膿症は有ったみたいです)。

確かに皮膚型リンパ腫への治療は最終的に厳しい戦いですが、色々と楽にしてあげる方法が有りますし、子宮蓄膿症でも現在は手術しないで治すホルモン療法(適応は限られます)もあり、厳しい状態でも色々とこの子のお役に立てたのにな・・・と非常に無念でした。

この子に限らず、大きい病気や複数の病気、治療費も治療期間もかかる病気、そして治らない病気こそ的確に診断して、治療をお任せ頂ける獣医にならないとな・・・と改めて思いました。当院の診察で、もし何かありましたら、診察時に気軽にご質問・相談して下さいね!