(免疫介在性疾患・自己免疫性疾患の症例:9)天疱瘡はやっぱり深い!皮膚科認定医として遣り甲斐も有る疾患です。

症例5でも紹介していますが、天疱瘡を疑う疾患群は色んなパターンがあります。病気としても色んなパターンがありますが、同じ病気でも病期であるとか、それぞれの子の薬の相性だとか禁忌だとか、家庭の事情とか色んな考慮すべき事があります。その制限の中でどうやって診断や治療をするか?は皮膚科認定医としての経験と知識に基づく取捨選択が非常に大切になります。
 
最初に病歴から非常に詳しく聞いて、その子をしっかりと診察して、そして反応を見て相談している過程を下記から読み取って頂けると嬉しいです。今回も他の獣医師さんからの紹介症例になります。何度も言いますが、こうやって難治症例を適切に紹介してくれる先生は本当に良い先生です。僕も自分の手に負えない症例の子はすぐに紹介をします!逆に何故か転院したり他の病院の意見を聞こうとしたら激怒する先生も未だに居ます(前の先生に怒られるから何の薬を使っていたか聞けない、と言う方が凄く多いのです)。・・・う~ん、悪い先生かは分かりませんが、良くない様な・・・。

■ワンちゃん ミックス犬 初診の年齢6歳位 すごくすごく良い子ですが、本当にシャイな子でした(最近は慣れてくれました)。
■病歴:5年前位から口唇部の痒みがあったそうです。その後は脇に広がりましたが、一般的な抗菌薬の投与で治ったそうです。でも夏の間にマラセチアと言う真菌に感染して投薬をしたそうです。その後ステロイドを使ってみたり(ただし使ってみると肝数値が悪化する!)、最新のイソオキサゾリン系の予防薬を投与して、アレルギーの検査をしてみて食事を変更して見たり、違う抗真菌薬や抗菌薬をしてみたり・・・色々としても悪化の一途で来院されました。

■症状:肝数値上昇でステロイドを2週ほど前に終了してから、痒みの10段階評価は「8」と寝てても起きてても(ご飯や散歩などをしていても)ずっとかなり痒い状態で悩まれていました。膿皮症には抗菌薬と食事療法でアミノペプチドを頑張ってくれています。もう5年になりますので、かなり大変ですね・・・。症状は全身に渡り、良い場所が無い位です。
 
左内股と下腹部です。膿皮症とそれが拡大した表皮小環があります。もちろん両股が悪いです。
 
拡大写真です。
膿皮症だったら細菌性ではありません。他の症例報告でもお伝えしましたが、真菌や寄生虫の事すらあります。更には自己免疫性の事も・・・今回も経験と知識があると「あれ?ちょっと膿皮が大きいよなぁ~」となります。
   両方肩です。
肩口も膿皮症→痂疲(カサブタ)になっていますね。これは当然全身に広がっています。痛々しいです。
 
何となく目に付く大きい部位に目が止まりますが、ここで更に全身を確認するのが大切です。
あれ?鼻の上と肉球も変ですね。こうなると認定医なら「アレかな?」と疑い始めます。
と、言う事で膿皮の膿を慎重に検査します。
 顕微鏡写真です。大きく薄青いのが棘融解細胞です。
やっぱり棘融解細胞と思われる細胞が沢山あります!炎症は酷いですがそれにしてはブドウ球菌は少数しか見当たりません。
と、なると「単なる膿皮症じゃなく落葉状天疱瘡かな?」と疑える情報が集まります。
  
「じゃあ今から皮膚をくり抜いて検査していきますね~!」
  
・・・とはしませんでした。もちろんそうする場合もあるのですが、今回はまず「ブドウ球菌感染はしている(二次的?)」「ご家族の方もかかりつけさんの推薦で来院されたが、信頼関係ができていない」「物凄いシャイな子で、病院を恐れている」「肝数値などが悪い」等の事情から一旦「この子は『落葉状天疱瘡』と言う自己免疫性疾患の可能性があります。今回対症療法で良くなると思いますが、再発する可能性があるので、そうしたら皮膚生検をしましょう」と最初にお伝えして治療をスタートしました。
 
治療は普通に痒みをコントロールして、標準的な球菌感染のコントロールをしっかりとして(幸いシャンプー等は得意!)、食歴等を参考に新しい食事に変更しました。真菌培養陰性を確認。そして1カ月・・・落葉状天疱瘡の治療としてはしていませんが
右肩です。
  内股です。
殆ど治りました!・・・あれれ?落葉状天疱瘡では無かったのか・・・??いや、喜ばしいのですが・・・。
細菌感染においては棘融解細胞が出現して、一見落葉状天疱瘡の様に思える事があります。
或いは薬疹等も同じ所見を認める事がありますし、食物有害反応➡細菌感染➡天疱瘡みたいな膿皮症もあるのかも??
痒みのコントロールをする投薬量では落葉状天疱瘡のコントロールは難しいはずですし、ここからが要注意です。
 
やはり改善はしたものの4カ月程度経過しても新しい食事療法と最低限の投薬やスキンケアでは十分に満足いく状態を維持できなくなりました。でも以前よりは比較的安定していたので「皮膚生検をしませんか?」とお願いし快諾して頂けました。
 
やっぱり・・・論文を書くなら更に直接蛍光抗体法をしても良いのですが、凍結切片での陽性率も7~8割で今する意味は乏しいと判断し、念の為に真菌の特殊染色(グロコット染色)のみして臨床経過から「落葉状天疱瘡」と診断しました。
 
ただし、天疱瘡は本当に色々なタイプがある様です。犬では多くが落葉状天疱瘡ですが尋常性天疱瘡もありますし、落葉状天疱瘡と円板状エリテマトーデスの特徴を併せ持った紅斑性天疱瘡や、尋常性天疱瘡に似た増殖性天疱瘡や尋常性天疱瘡とエリテマトーデスの特徴を併せ持った腫瘍随伴性天疱瘡等色々とあります。犬の皮膚リンパ腫でも色んなタイプがありそうだと分かってきていますが、恐らくは同じ落葉状天疱瘡にざっくりと分類されていても色んなタイプがあると僕は思っています。
 
なので今回も標準治療は頭に入れつつ、この子の状態や反応を見て色々と治療を都度計画しました。特にこの子の場合にはブドウ球菌感染が何か重要な関係を持っているのか、コントロールが不良になると球菌感染が問題になっている事もあり(適切な外用療法はしているのに)、油断せずに悪化時は細菌培養検査も適宜行い治療をしました。そんなこんなで1年が経過しました。
  背中です。
左の内股です。
基本的に良好です(毛刈りしていて分かり易いと思います)!一旦良くなってくれても常にご家族と一緒に悪化に気を付けて、細菌感染を減らす外用療法を適切に行いながら、最低限度の落葉状天疱瘡の内科治療を反応を探りつつ投与して治療しています。やっぱりステロイドには過剰に反応する体質なので、標準療法は難しいのが難点です。でも認定医として考え甲斐と遣り甲斐があります。
 
残念ながら完治する事は難しいと思われますが、そうであれば尚更できるだけ薬や手間の少ない治療方法を一緒に考えながら治療しする事を目指しています。ちなみにワンちゃんは相変わらず怖がりさんですが段々と慣れてきてくれて、益々可愛いです♪