(感染症の症例:4)謎の病気?と思ったら地中海の伝染病リーシュマニアだった症例

■ワンちゃん 初診時11歳10か月 オス
■病歴:時々血尿や血便をしている。最近外耳炎から耳血腫になった。
    元々皮膚も悪かったが、ここ半年で皮膚も含め全身が段々と調子が悪くなっている。
    2つの病院で色々と調べたが、特に原因は特定できていない。
■初来院時:顔は目の周り中心に脱毛し、脱毛は尾・太もも・脇などもあります。一見アレルギーにも見えますが、全身に分厚いフケも多く、両肘・両踵は非常に肥厚して
    (分厚く)汚い分泌物が出て痛々しい状態です。何より元々8kg有ったのに、7kgと著しく痩せており、    全身のリンパ節も腫れています。

肘です。                      踵(カカト)です。


すでに他の病院で色々と調べて貰っているのに、申し訳無いですが、更に色々と調べさせて頂く事にしました。何しろ全身的な衰弱が激しいので・・・。
血液検査では「貧血・高タンパク(低アルブミンで高グロブリン)・腎不全・肝不全」があり炎症時に高くなるc-CRPが測定限界以上に上昇していました。血尿もありました。
リンパ節の腫大が気になるので、それを針で突いてみると・・・。
「???」実際には見た事無いですが、皮膚科の勉強をしていて見た事がある様な・・・?
でも日本では無い病気なハズなんだけどなぁ~。

よくよく問診をやり直すと「4年前までイタリアに居た」との事!
細胞診断と同時にリーシュマニアの抗体検査もしました。
結果、病理的にリーシュマニア原虫が確認され、抗体検査からLeishmania infantumの感染が証明されました。リーシュマニアは地中海では一般的な皮膚の他に様々な症状を起こして死亡する事もある伝染病です。この種類は人間にも滲出物を介して感染する可能性があり、分かって本当に良かったです。日本にはこの病気を媒介するサシチョウバエが居ない為に、周囲への伝染はまず無いですが、今後日本が熱帯化すると有り得るかも知れません。
治療は様々な薬があるのですが、何しろ「日本に無い(報告として2例、いずれも渡航歴あり)」と言う病気ですので、個人輸入しても異常に高価な値段だったり、厚生省の保管薬剤で手に入らなかったり、で非常に悩みました。文献を読み漁って、日本で使用できる薬の組み合わせを決めて、投薬してみました。今や僕は多分日本でも有数のリーシュマニアの文献を持っています(笑)。
複数の投薬の結果、1か月もすると非常に良くなってきて(全身症状も)、2か月する頃には貧血やリンパ節の腫大も血液検査異常も含めて殆ど正常になってくれました!

綺麗になったお顔を出せると良いのですが、個人情報(?)なので割愛しております。 診断には先入観無く、色々な勉強をして望まないとダメだなぁ~と学んだ症例でした。