(感染症の症例:17)酷い膿痂疹!でも若いので敢えて外用療法で・・・
ワンちゃん ミニチュアシュナウザー 初診時 3か月
■病歴:
若いので全然持病も無く元気一杯です!予防もしっかりされています。
■初診時:
3~4日前から急にお股にブツブツができたそうです。痒みは寝れない程では無いですが、起きていると舐める様子です。
特に病歴も無いし予防もして、散歩もほぼしない状態で思い当たる悪化原因も無いそうですが・・・え?人用のシャンプーで洗っているんですか(汗)!?
それは原因になったかも知れませんね。人と犬(猫も)では皮膚のPHや構造が違います!まずそれは止めましょう。さて病変は?
股の部分です。これはこの病気に特有の場所になります。凄い酷いですね・・・。
アップです!こうするとこの病気特有の状態がよく分かります。病歴・予防歴・年齢・場所・皮疹(ブツブツの様子)からは皮膚の細胞診をしなくても病気はほぼ決定です。でも更にダーモスコープで拡大して診ましょう。
基本的に毛包に一致しない膿皮が沢山あります!しかも大型。でも毛包に発生しているのも有ります。これは基本的には教科書的では無いですが、そう記載している本も有ります。 これを単なる「膿皮症」にしてはダメですし、もっと言えば「アトピー」とか言い出したらもっとダメです。
子犬の時に初期治療を一番間違ったら怖いのは若年性蜂窩織炎です。
これはそれよりもマシですが、なかなか見た目には酷い状態を示す若い子に特有の病気で「膿痂疹」と言います。膿痂疹は表在性膿皮症に分類され、子犬の膿皮症とも言われます。 大人の膿皮症と同じでS.pseudintermediusの感染から引き起こされます(生後1日でこの常在菌は母犬から子犬に移ると言われます。実は1歳以下でも多剤耐性菌MRSPが15.2%検出されるそうです)。
不衛生や栄養不足でも起こりますが、青春のニキビみたいなもんで性成熟前の思春期で発生します。もし成犬で発生したらホルモンの病気や糖尿病、場合によっては外傷性を疑います。下腹部・腋窩の疎毛部に限局する事が多いです。痒みはインパクトのある見た目ほどは無い事が多いです。
よく痂疲を伴って大きな膿疱が見られますが、これは細菌の毒素による表皮細胞の接着障害から発生します。でも小さい膿疱も表皮小環も認められますし毛孔一致性が存在する事もあるので成犬だと普通の膿皮症と区別が難しい事もあります。その他にも若い子だと皮膚糸状菌症やニキビダニ等の寄生虫は鑑別が必要です。もちろんこの子も環境や予防はバッチリですが、念の為に皮膚細胞診で球菌の感染の確認をしました。
この病気は結構外用療法だけでも効果が出る事があります。ただし重度であれば早めに内服をした方が良いのですが・・・この子はかなり酷いし、痒みもあるので内服で一気に治したいところです。 でも子供の時にあまりに抗菌薬を投与すると、将来的に良くないと言うデータがヒトでも犬でも増えてきています。それに耐性菌も問題です。ヒトでは2050年には年間1000万人が耐性菌で死亡すると言うデータもあります。こんなに若くから抗菌薬を使い始めたら早期に耐性菌ができる可能性もあります。
ちょっと頑張って貰わないとダメですがご理解頂き外用療法を集中的に行いました(もちろんそれが不可能な場合は内服中心に治して良いと思います)!敢えて低刺激性の痒みを鎮静化する効果のあるシャンプーと保湿を行い、消毒効果のある外用をローションを含め2種類頑張って頂きました。
1週で改善し始めましたが、2週目で改善がストップ・・・教科書的には内服スタート!ですが外用薬を一部変更して外用療法を継続しました。これが思春期のホルモンの関係であれば人間のニキビみたいに成長に伴って落ち着くはずです。
本当に外用だけで大丈夫かな・・・と、正直ちょっと心配になりだしたのですが、無事に約1か月でほぼ治りました!その後の再発もありません。
早く治す事は大切ですが、長い一生を考えて治療をしなくちゃな~と改めて思いました。手間暇かけて外用療法をして下さったご家族のお陰です。
以前に脱毛症の所でも書いたのですが、副作用を覚悟で投与したら治る確率が上がる薬って実は沢山あります。痒かったら寝かせてしまえ!みたいな方法も有りますし。時にはそういう治療が必要な重大な病気もあるのですが、当院では治療成績以上に身体全体の事を考えて「副作用の強い治療」は極力減らしたいな~と考えております。もちろん病気や環境で最良の治療方法は異なるので、オーダーメイドで相談しながら、その子の最善の治療をできる様に日々勉強して一緒に考えたいと思います。