(免疫介在性疾患・自己免疫性疾患の症例:4)怪我か好酸球性局面?と思ったら血管炎だった猫さん

*お写真に血肉が見えてツラいものもありますので、弱い人は見ないで下さいね!!

【注】免疫介在性・自己免疫性疾患の所に便宜上入れましたが、Ⅲ型過敏反応としても非免疫学的でも発生し、厳密に言うと原因不明です。

■ネコちゃん( ?歳 去勢オス )
■病歴:約4か月前に道端で保護、著しく脱水し痩躯
 シラミ・マンソン裂頭条虫・壺型吸虫感染
 FIV・FeLV共に陰性
 腎数値上昇 肝数値上昇
 右わき腹に治りかけの裂傷、パッドの傷
駆虫や皮下点滴・栄養支持・傷処置にて治癒し、3か月後に去勢手術を実施できました。術後18日で背中にカサブタが発生しだしました。  背中のカサブタ(写真①②)でしたが、ヒーターの低温やけどをする様な長さの手術でも 無いですし、最初は術前に投与した注射によるものか・・・?と思いました。 抜毛検査・掻き取り検査をして著変無く、ノミダニ駆除と抗生剤投与で経過をみました。

 
写真①:病変は背中に散在しています。  写真②:カサブタは非常に分厚いのが特徴です。

真菌培養も生えず、順調に治っている様にも見えました。しかし広がります。 ストレスが有りそうとの事でフェリウェイをしていましたが、18日目にケージで大暴れをして鼻鏡・パッドめくれる怪我を負いました(写真③)。ただ、通常なら簡単にめくれませんし珍しい事です。「よっぽど大暴れ?」なんて認識でしたが、今思えばこのタイミングが最初の生検のお勧め時期だったかも知れません。


写真③

背中だけでなく他(写真④~⑦)にも広がってきました。膿の検査では通常の感染のみです。一度くちびるで好酸球が出ましたが、単なる猫で良くある好酸球性局面にどうしても見えません。何度しても色々な基本の検査等は著変無しが続きます。


写真④:背~首へ

  
写真⑤:唇
写真⑥:左の脇
写真⑦:尾の腹側です

細菌培養に基づいて抗生剤を変更しても改善は乏しい状態です。とにかく病変自体は治っても、同時進行で色々な場所に新たな病変ができる感じです。(写真⑧~⑩)
  
写真⑧:左脇
写真⑨:尾
写真⑩:背中

40日後にやっとお勧めしていた皮膚生検を行えました。皮膚を一部取る検査で可哀想な気もしますが、止むを得ません。「血管障害による重度の皮膚虚血が最も考えられ、一部で血管炎と思しき像がある」との事でした。特殊染色で感染の中でも気になっていた真菌感染も否定でき、鑑別として考えていた多形紅斑と好酸球性肉芽腫等も組織像から否定されました。 血管炎は血管壁や周囲の結合組織の炎症後に壊死や虚血症状が生じるものです。犬でも少ないが、猫では稀であるとされます。
さて、生検後にさっそくステロイド・・・をしたのではなく、手術時の1回のエピソードであるとの可能性もコメントで頂いたので、感染も酷かったので少し経過をみてみました。 しかし、結局は頭部中心に再度傷が発生し、ステロイド療法(1.4mg/kg SID)を開始しました。最初は感染が余りに酷く、恐る恐るステロイドを投与したのですが、これでは効かず更に進行しました。猫の落葉状天疱瘡の爪周囲炎でかなりの細菌が出てても免疫抑制をしっかりすれば炎症が消失する論文を思い出して、改めてPred 1.4mg/kg BIDで投与を再開しました。すると感染悪化の心配をよそに見事に潰瘍が消失していきました!(写真⑪~⑬)
  
写真⑪:右背中
写真⑫:左背中
写真⑬:耳

正直かなり珍しく初めての病気でしたが、ちゃんと診断して投薬したら治るんだな~って改めて感動しました。
元々衰弱したこの子をここまでお世話する飼い主様に感謝です。

 
その後3年目に一度少し再発しましたが、最小限度のステロイドで5年以上順調にしてくれています(完全に皮膚が脱落した所は発毛しません)」