(アレルギーの症例:27)深在性膿皮症ですが、根本はアレルギーです。

ワンちゃん フレンチブルドッグ 初診時:6歳8か月

病 歴:何年も前からの色んな場所の皮膚炎です。四肢端は特に酷いです。半年前にはアレルギーの検査のフルセットも受けています。抗菌薬・外用ステロイド・消毒・食事療法・・・よくある治療をフルセットでしているが治りません。

初診時:痒みは夜寝られなくなるレベルのVAS(5/10)です。歩行が困難になる位に手足が特に酷いです。更にアゴ下や胸部中央や右肘にも病変があります。どれも基本的には表在性よりも大変な深在性膿皮症だと言えそうですが、基本的な治療をしても難治性なので精査が必要です。

まず手足は全てで上からでも分かる位に指間がパンパンに腫れて分泌物が出ています。疼痛も酷く腫れが酷いので、表皮だけの問題では無いとすぐに分かります。そうなると内服は必須です。外用薬を塗るのは痛くなくなってからでも良いです。

裏の方が酷いですね・・・年季が入っているのと、常に足裏には負荷が掛かる事から肥厚して苔癬化と言う変化を起こしています。

これで分かる事は残念ながら「一生ケアが必要だろうな・・・」と言う事です。色々と頑張りますが、恐らくここまで身体が変化すると変形した足裏は持続因子として皮膚炎を起こす「元」になります。それは物理的な谷間とか負重の変化もありますし、分泌腺の機能的な変化もあります。

元気な子なので動いてボケちゃっていますが、アゴ下も深部の感染がありそうです。いわゆる「ざ瘡」です。胸は少し隆起している小結節があるのですが、針生検では恐らくは「肉芽腫性炎(マクロファージによる炎症)」ですが、念の為に腫瘍の検査に回しました。あれ肘もおかしいな・・・。

これで分かる事は「この子の皮膚病は部分的な問題では無く、全身疾患からだろう」と言う事です。食事アレルギーも候補の一つですが、さてどうでしょうか?

まずは折角ある程度の信頼を置けるアレルギーの検査をしているので(毛で分かるアレルギー検査!とかはダメです。波動で分かる!とか謎の検査もオカルトです)、それと問診に基づいて食事候補を出して選んでみました。まずはこれを2カ月頑張る事です。

ただ、こんな状態で「じゃあ2か月後ね!」なんて出来る訳が無いので、平行して内服が必要です。これは論文にも色々と方法が規定されています。信じられない位のステロイドを投与する論文もあります。

まずステロイドを使います。「アポキルとかゼンレリアが有って・・・」等と優しい治療を提案する事もありますが、こういう肢端の場合には身体が健康で他のホルモン病なども無さそうな前提で初期はしっかり使います。その上である薬も初期から使います。

前医では途中でサイトポイントも使用してくれていますが、残念ながらガイドライン上も治る段階・状態ではありません。でも余りに足が痛いので鎮痛薬を使ってくれています。これはステロイドとは併用できませんが、アトピー治療で状況によっては積極的に使う事は悪くないと思います。肢端の深部膿皮症としても必要な事が多々あります。

抗菌薬もこんな場合には積極的に使うべき薬があります。もちろん相談はしますが、重度かつ末期ならば、かなり誘導して積極的に頑張ります。結果、1か月位でかなり改善しました!

でも全然油断できませんし、ゴールではありません。悪いサイクルを絶たねばならないですが、完全に断つ事はできないのでご家族と足並みを揃えて頑張るしかないのです。案の定、足は調子が良いのに右肘から膿が・・・すぐに細菌培養をしてみます。耐性菌では無く安堵しましたが、恐らくこういう事は繰り返します。コツコツ頑張るしかありません。

すぐに症例紹介をしたい良い回復でしたが、それだと今までと同じなので1年半位経って、長い目でどうなのか?を紹介したいと思いました。この間は内服をできるだけ減らすチャレンジはしましたが、その度に少し悪化するので一緒に相談して微調整です。たまに途中で治療から消えてしまう方もおられます。僕の色々な能力不足ですが、哀しく勿体なく思います・・・一緒に頑張れる様に祈りつつ、1年半が経ちました。

まずアゴはOK!ヒジもすっかりトラブルが無くなりました。

特に短頭種ではアゴは擦る事により悪化します。短頭種の毛は擦ると毛包が破綻して、それが異物性の炎症を引き起こします。

手足はどうでしょう?

       

手足は4本全て満足レベルです!

 

でもやっぱり足裏は構造的に変化したものは戻る限界があります。これは持続因子として再発につながるので要注意です。

内服は2種類を飲んでいますが、共に週に2回だけです。飲まない方が良いのですが、それがこの子のベストな維持量です。

深在性膿皮症でもせつ腫症や肢端感染性結節、深在性毛包炎は非常に手強い事があります。新しいガイドラインに沿って感染症をしっかり管理するのは当然ですが、それと同時に「再発性膿皮症の40%が犬アトピー性皮膚炎で21%が食事アレルギー、6%がノミアレルギー」との報告や「犬アトピー性皮膚炎の66%で再発性膿皮症が発生する」「耐性菌では26%で犬アトピー性皮膚炎、耐性菌で無ければ更に倍の50%位がアトピー」等の報告があり、膿皮症に加えて主因のアレルギー管理が大切になります。

本当は外用薬等も頑張って頂いていましたが、最近は「うわ~最近全然してないわ!忙しいし」と笑顔で言って頂けています(笑)。もちろん外用療法をもう少し頑張ると内服が減らせるかも知れませんが、実生活やワンちゃんのやり易さなど、治療には色んな要素が大切ですので、僕はご家族とワンちゃんが一番幸せなバランスが大切だな~と思っております。