(アレルギーの症例:29)柴犬さんのアトピーは心因性も注意!

ワンちゃん 柴犬 去勢雄 初診時:7歳1カ月
病 歴:生後3歳からの外耳炎を伴った季節性の痒みが段々と年中になっている。
皮膚科の先生(?)に診て貰ってアポキルと他に色んな薬を飲んでいる。最近は変わった薬も併用しているが治らない。
もう投薬後1年半になるが、起きている時はよく手足を噛んでいる位に痒いのが続いている。(真冬の来院です。)
柴犬➡1年を通じた難治性の痒み➡ピコーン💡!食事アレルギーだ!!
➡生後3歳からの外耳炎を伴った痒み、最近年間を通して痒い➡分かった🔎!アトピーの相当な悪化だ!!
・・・と言う単純な事ではありませんので、まずは問診・視診を重ねます。診断過程は「感染症の症例:19」も参考にして下さいね。(と、症例28と同じ様な事を書いてスタートします)
問診では標準的よりやや多いアポキル以外にかなり標準的では無い抗発作薬・抗うつ薬やメラトニン関係の薬などの併用がありました。抗発作薬の使用は全く皮膚科で話が無い訳では無いですが、普通は使いません。余程困ったのか、オリジナリティなのか・・・。
まずは視診ですね。問診からすると相当酷いかと思ってしまいますが、どうでしょう?

左手ですね。確かに脱毛の症状があります。でも感染している感じの症状は乏しいです。部分的に脱毛していれば感染も疑いますが、他の部分はどうでしょうか?

右後肢です。左もですが、この様な感じの病変が四肢にあります。コーンボビングと呼ばれる状態ですね。
コーンをボリボリ食べて残った芯みたいに毛がまばらに脱毛している、と言う状態です。外人さんは上手に表現します。
これだけの投薬をしても自分の手足をボリボリ齧っているので、見た目以上に酷いと言う事が分かります。

四肢に目が行きますが、必ず他の部分も拝見します。なるほど、背中にも脱毛跡や鱗屑(フケ)があり、炎症や色素沈着があります。
さて、まずは主因となるアトピーは有りそうに思えました。

ですが、地道に感染症は除外が必要です。しっかり必要な検査をして試験的な駆虫もして頂きます。
食事は関係しているでしょうか?究極は除去食試験や負荷試験をしないと分からないのですが、病気の進行や症状からは余り関与していそうには思えませんでしたので、一旦は食事に関しては基本ノータッチです。でも食べるご飯のシンプル化はして頂きました。
さてアトピーが主因だとして、ここまで色んな投薬をして手足に執着している状態は単なる悪循環なのでしょうか?

確かにそれは有り得ます。アポキルは優秀な薬ですが、万能でもありません。手足の場合には最近出たゼンレリアの方が有効だとの報告もありますし、長くアポキルをしているので一度変える事を提案しました。ただし、この薬は歴史の浅い新薬ですしリスク面もしっかりお話します。逆にゼンレリアが効かないでアポキルが効く事もありますし、両方がイマイチの事もあります。
更に、この子の場合はスキンケアに関しては、まだできる事がありそうでした。前にも紹介しましたが、薬だけで何とかしようとするのは良くありません。アトピーの治療で必要なのは「投薬・腸活・保湿」です。


(CAD治療とは犬のアトピー治療の事です)
実は人間では「投薬・腸活・保湿」そして「メン活(メンタルケア活動)」と言われます。ペットさんでもメンタル的な要因は皮膚科に限らず非常に多いと思います。他の病気でも退院したら急速に元気になったり、精神的に病む様な状況では様々な病気になったりを感じます。この子はどうでしょうか?
この子の場合は柴犬独特の繊細さによる心因性の要因の悪化を非常に感じました。多めのアポキルが効き辛く、手足に異常に執着しているからです。聞けば色んな薬はしていますが、何故か標準治療はされていませんでした。
土台でキッチリと診断と除外をした上で、心因性の投薬も改めて標準療法で開始します。僕は標準療法が大切だと思っています。それがダメだった場合に「変わった事」「オリジナリティの高い事」「リスクのある事」を選択するべきでは無いかな?と思います。何故なら世界中で同じ症例に対して既に「こうしたら治った」「こうした方が良いんじゃないか?」と厳しい目に晒されて生き残っているのが標準療法だからです(もちろん現在生き残っているだけで、標準療法は変わります。それこそが科学的に信頼できる・・・と言う事だと思っています)。心因性の薬には飲み合わせがありますので、現在の投薬を慎重に減らしての移行が必要です。投薬の種類や副作用をよく説明をさせて頂き、開始です。この移行で悪化したら眼も当てられませんが・・・。
もちろん可能な行動療法はして頂きますが、難治性は本格的に必要な場合は専門科の力が必要かも知れません。何にしても普通の事をちゃんとしてから、の話です。
1か月半で全く気にする事がなくなりました!ならばゼンレリアを半減です。それでも大丈夫です。

特に気にしていた左手です。
夏も少しだけ外用薬を指間に追加しただけで無事通過し、もう約1年間症状が安定しています!

足の写真がどうしても回転できない・・・すいません。手足はすべて「すべすべ(?)」です。もう齧ったりしないので「コーン足」ではありません!ひとまずここまで安定したら安心です。では低用量のアトピーの薬と標準的な心因性の薬の投薬を止めれるでしょうか?もちろん可能かも知れませんが、この子にはお勧めしていません(逆に若い子の初発などは心因性の薬をカットしてみたりしています。ずっと要るとは限らないので!)。一度悪化したら元に戻すのが大変ですし、現在の投薬なら基本的にはずっと使用できる量だからです。この辺はご家族とのご相談ですが・・・。もちろん高用量で維持が必要な場合も、それはそれでリスクとの相談です。
また同じ事を書いておきます!
とにかく大事なのはご家族の熱意です。これ無しでは獣医師が何を知っていても役に立ちませんので、頑張って学んで治療してくれるご家族には感謝しか有りません。より理解を深めて一緒に治せる様に、当院でご家族向けに無料で皮膚科のセミナーを開き資料を配布をしようかな~と最近思っております。