(アレルギーの症例:13)こういう部分的な難治性は難しいですね。でも!
ワンちゃん 避妊女の子 初診時7歳3か月
病 歴:3歳で両ひざの手術をしています。
そこから胃腸炎や膵炎や膀胱炎を繰り返しています。皮膚の症状としては3~4歳から春先にアレルギー症状が出るそうです。去年はステロイドからのアポキルでコントロールできたとの事でした。
それが昨年秋から冬も痒く、難治性になってきたご様子です。
初診時:痒みの程度を表すVASスコアは10の内で6~7とかなり痒いご様子です。皮膚炎はお顔は軽いですが、両手の前腕部が自傷による脱毛が目立ちます。 両ひざの周囲も脱毛しています。脇から胸の毛は薄め程度です。その他陰部周囲の間擦疹(シワ等の間の皮膚炎)や指間炎があります。外耳炎は殆どありません。
とにかく治らない手足の痒みと脱毛に特にお悩みのご様子です。
一番悪い右膝と、まだマシな左膝です
右肘です。前面も脱毛が有り、左肘も基本的に同じです。
治療経過:前の病院でしっかりと検査をされ、基本的な標準治療を受けている子です。ですが、少し状態が悪いので逆に「まだ足りてない事」をしっかり問診する必要があります。
僕が気になった点は以下のポイントです。
①過去に膝の手術をしているので、それが痛くて舐めてないか?
②便回数が1日4回で、7歳から年間を通して痒くなってきたので、食事に関してコントロールをしたいが、色々と気を遣って食事療法をされておられるが、 せっかくしたアレルギー検査の結果が活かせていない感じがする。
③痒いのが完全に制御できてないのに治療を止めてしまって完治できない。
④部分的に痒い所の外用療法が不十分。
⑤全体的なスキンケアがされていない。
①に関しては、歩き方や触診では大丈夫そうですし、全体的な皮膚の分布からも違うと思いますが可能性はあります。今まではこういう時に悩ましかったのですが、今は純粋な痒み止めに対しての反応を観る事でかなり分かります。ステロイドみたいな薬では炎症も抑えてしまうので、判断ができませんがサイトポイントと言う新しい痒み止め注射ならば効果でかなり判断が可能です。最近は難治性の皮膚疾患には心因性が多いとも言われますが、本当にそうなのか?心因性の疾患用の薬を飲むよりはサイトポイントの反応を見る方が早い場合もあります(ただし、厳密にいうとサイトポイントは神経に無関係では有りません)。
②痒みには食事アレルギーだと効き辛いと言われるアポキルがこの子では有効なのですが、やはり食事アレルギーの可能性はあります(効く子は半分近くはいます)。グルメで色々と食べているので、信頼のおけるアレルギー検査の結果に基づいてアドバイスをします。これは他の症例報告でも書きましたが、かなり細かい知識が必要になります。でも逆に検査だけが全てでもありません、検査結果は「ひとつのツールに過ぎません」それに杓子定規に振り回されると煮詰まります。そして現在販売のフードの材料もしっかり把握する事が大切です。ここは特にしっかりさせて頂きました。
③これに関してもサイトポイントの注射で強制的に持続して痒みを止められれば、しっかり発毛して普通の皮膚になり悪いサイクルを断ち切れる可能性が高くなります。 ④と⑤も状態に合わせて、ステロイドのランクや保湿剤の種類を選びますが、その子の性格やおうちの事情もありますので、これも細かい相談が大切です!
ですので、一見そんなに変わった事をしていなくても結構長い時間と細かい変更点や追加点が沢山出るのです。ここは皮膚科認定医としての力量を試される点だと思っています。
さて、どうなるでしょうか・・・。
右膝です
左膝です
右手です(前からしか撮っていませんでした・・・肘もOKです)
すっかり良くなりました!膝の痛みは関係無さそうです。胸も股も全部症状が消失して、痒くもありません。この時点で今後のアドバイスをして、ダメ押しのサイトポイントをして終了です。食事は変更が有効だったか?は、これからサイトポイントが切れてきて分かってきます。ここまで完全に元に治せば、後はいつもの病院でコントロール可能だと思います。
この子は遠く大阪から来てくれたのですが、偶然にも僕の出身病院の患者様だったので緊張しました(苦笑)。本当に熱心でよく観察して教えて頂けるご家族だったので、非常にスムーズに改善したと思います。