(アレルギーの症例:16)恐らくは3つの要因がある色んな手が使えない難治性の子
ワンちゃん・チワワ・避妊オス・初診時6歳8か月
病 歴:
去勢をした生後6か月位から皮膚が悪くなり、1歳半から悪化したそうです。タイミングとしては引っ越しがあったそうですが、それが原因かは?です。 全身で症状がありますが、大腿部の前面は常に特にひどい症状だそうです。痒みの程度は10段階で5~6位ですが、酷い時は9~10位になるそうです。
もう5年近くも色んな病院で色んな治療をしているので、有効でない事が色々と分かっています。シクロスポリン・アポキル・コルタバンス・インタードッグ・抗ヒスタミン薬そしてガバペンチン・・・最後のお薬は「てんかん」や「脚のむずむず病」に使われます。 そして神経障害性疼痛にも使われたりもします。う~ん、これまで使って効きませんでしたか・・・獣医師の苦悩が分かります。 逆にステロイドはある程度効くそうですが、外用はともかく内服でし続けるのは確かに心配です。それにステロイドのせいか膿皮症になり易いのですが、抗菌薬は効くものの下痢をしてしまうみたいです。
初診時:
外耳炎・指間炎は軽度です。体幹も膿皮症は散在していますがひどくはありません。
しかしながら両後肢の大腿部の前面・・・脱毛が酷くて膿皮も沢山あり、フケも沢山認められます。
アトピーとして矛盾の無い症状ですし、大腿部の前面は本人が齧りやすい面もあり悪化しやすい部分ではあります。でも差が大きいです。
この部分だけに感染が酷くなる原因はあるでしょうか?左右対称性ですし特別には無さそうですが、感染の除外はしっかりします。・・・どうやら膿皮症は単純に脱毛して自傷する為に起こってそうです。
両膝や股関節は痛く無いか?これは見逃しの元になるので、しっかり確かめます。・・・大丈夫そうです。
皮膚を知っている先生だと、この部分が脱毛している場合には「やっかいかもな~」と思うでしょう。何故なら精神的な問題が特に「柴犬・プードル」だと多いからです。これは難しい点です。 問診・症状・今までの薬への反応性、全てを合わせて考えると「アトピー」「食物関連の問題(アレルギーを含め)」「精神的な要因」が絡み合っている可能性が考えられます。
もちろん単純な場合も多いのですが、紹介等で御来院頂くと複雑な問題が多く、ご説明にも時間が掛かります。やっぱり最後にはご家族の熱意になりますのでメモを書きながら熱意と丁寧さを持って伝えする事に努めております。
治療経過:
さて治療です。ステロイドを使います。
なんじゃそら!って言われそうですが(苦笑)、効いていると分かっているモノを使わない手は無いです。 ただし、注意が有ります。部分的かつ程度は軽いですが膿皮症が悪化するリスクを注意して使用量は抑えなければいけません。そして感染対策をしなければいけません。 この辺は「病状と色んな事情を合わせて判断する⇒さじ加減」なので、似たような場合でもステロイドは絶対禁止で治療する事もあります。
色々としているこの子ができていない事が2つ有りました。「食事コントロール」「スキンケア」です。この2点に関しては「やっていた、と思ったら実はしていなかった(と同じ)」と言う事がとにかく多いです。
上記2つのご説明に関しては大変ですが、いつも頑張ってしております。それをしつつ2週・・・ほとんど効いていませんし改善していません。
「え~!?ステロイド効くって言ってたじゃん!」・・・って事にはなりません。ステロイドは初期の炎症を抑える為に使う目的です。
ステロイドで初期対応をしてから「バトンタッチして使う薬」「維持するスキンケア」「試行錯誤と相談をしながら食事コントロール」を一緒に頑張ります!
食事はカンガルーが主原料のフードがバッチリだぁ!!と思ったらオーストラリアの大きな山火事でカンガルーさんが減って販売中止になったり大変でした。
そんな訳で試行錯誤の食事要因のコントロールに時間が掛かり、5~6か月でやっと9割の改善になりましたが、かなり良くなりました! 残念ながらカンガルー系フードが厳しく(海外では缶詰があるのですが、安定供給と値段が厳しいです)食事だけで皮膚が100%治らない部分が有りますが、そこはアトピーの治療を最低限で行います。
耳も大丈夫で痒みもほぼありません。
半年以上経っても更に美しく!
心配していた精神因はどうしたのか?ですか?
実は特に何もしていません。しなくても大丈夫でした。痒み止めの注射は必要ですが、それだけです。
当院では調べて分かる限りの精神に作用する薬を限界一杯に投与して頑張っている子もいます(でも症例紹介に載せれない位の改善程度・・・と言うか苦戦しています。最近ちょっと改善の兆しが見えてきましたが)。 でも誰にでも投薬をしませんし、ほとんどの場合はしません。たぶん皮膚科に注力をしている獣医師としてはかなり使用しない獣医師ではないかな?と思います。
人間でも精神的な問題がある時には「まず環境・行動の改善」だと思うんです。それに調子が良い時と悪い時があると思うんです。 心療内科に行っていきなり精神の薬をてんこ盛りで出されたら・・・まぁ必要な場合もあるとは思うのですが、僕はちょっと心配です。
良くお話を聞き、環境とその変化と皮膚症状の関連性から推察するに「この子は甘えん坊だけど、病的に依存はしていない」「すごく大切にされて時間を割いてあげられている」「家庭環境も悪くない」状態であり、皮膚が悪いと「皮膚のストレスそのもので悪循環になっている」と判断しました。 実際に純粋な皮膚の治療だけで落ち着いてくれました。人間のアトピーの方でも仕事や私生活のストレスは症状を悪化させ、掻く事の気持ち良さが発散になり、そして更に皮膚が炎症を起こし傷ついて・・・と言う悪循環がある様ですが、だからと言って当初から抗うつ剤をぶち込むなどは通常はしないと思います。
ご家族と相談し、一緒にどれだけ心労と心配と手間の掛からない治療をできるか?いつも考えています。そして、それにご協力頂き実行頂くご家族の愛情にいつも感謝しております。 この子も維持療法のベストを一緒に考えながら治療継続中です。
*アトピーの注射薬「サイトポイント」を通常より少し長めの間隔(1.5か月)で使用し、それだけで全く問題なく維持できております。