(感染症の症例:12)膿皮症だけど、もう皮膚で有名な良い先生が診ている・・・。

ワンちゃん ヨークシャテリア 初診時6歳5か月
■病歴:1歳から外耳炎と膿皮症が発生し、持病として続いています。吐き下痢が時々あります。去年はてんかん発作様の発作がありましたが投薬はしていません。遠方から来られていますが、お聞きすると皮膚でかなり有名な病院の先生の診察を受けられてい ます。僕も良く存じ上げる良い先生です。

皮膚の二次診察をしていると「この子は何の薬をされていたんですか?」「う~ん、分かりません」「この子のされた検査は何でしょうか?」「さぁ・・・」と言う感じで、全く何をしていたか分からずに困ってしまう事があります(こういう場合はイチから調べなおして、試すしかありません)。説明不足の獣医師が根本原因でご家族には悪気はもちろん無いのですが・・・困ります。

ですが、この子のご家族は、ずっと病気と真摯に闘って来られたし、良い先生が説明をして下さっているので、してきた事が明々白々に理解できました。僕にできる事はあるのでしょうか・・・(汗)。

■初診時: まず問診を再度まとめてみました。 「1歳から」「1年中」「痒み程度は中の上(VASスコア:5~6/10)」「アポキル・抗生剤に反応はする」「抗生物質にも反応する」「抗菌シャンプーもして保湿もちゃんとしている」「食事は色々と試している」等々、
とにかく情報も受け答えも明瞭なので良く分かりました。お陰様で問診の結果から「あれ?これはしないんだ」「これは変えたいな」と思う事も出ました。
外耳炎は脂漏を伴って軽度。口周りの炎症と脱毛、胸と大腿後部に特にひどい膿皮症と、それが破れて発生する表皮小環があります。が、問題の発生する部位は時期によって異なるそうです。視診からは「酷い膿皮症である」以外には診断は難しそうです。


上は胸、下はおしり



拡大図です。



皮膚病診察は「お前が犯人だぁ!!!」となる事もあるのですが、実は地道に除外診断を繰り返したり、本当にご家族にはストレスだと思いますが試験的な治療をしてみる事も多いです。 この子もまずは先入観を入れずに「他の感染症の除外」をします。
繰り返す膿皮症の三大原因と言えば「アトピー」「食物関連」「甲状腺機能低下症」です。この中でハッキリ除外できる甲状腺は複数の検査項目を利用した検査でしっかり除外します(この子は確率としては低そうでしたが、難治性なので敢えて説明し費用をかけて除外させて頂き ました)。

ここから先の治療は教科書的な事を土台にはしますが、経験的な事を活かしてご家族と患者さんの悩みの早期解決をする事を大切にしました。

ですので問診と視診と除外診断の後に、僕の取った治療は少し教科書的ではありません。

*敢えてアレルギー検査は抗体検査だけ行う
(アレルギー系の検査も「できるタイミングか?」「それは意味が大きいか?」を考えます。それらを把握しないと間違った利用方法になります。)
*敢えて抗生剤を飲まないで、外用療法だけ強化する(今回は細菌培養も後回しです)
*敢えてアポキル(ステロイドに代わる新しいアトピーの薬です)をしっかりと使用する


一歩間違えると悪化しそうですが・・・2週後の写真です。


痒みも減り、かなりハッキリと改善しました!また抗体検査からはマトンにかなり高い数値が出ました。 よくお聞きしたら羊のジャーキーを食べていたので止めます。その他食事のアドバイスを色々としました。





3か月後になると毛も増えます。アポキルは隔日でしか飲まなくなりましたが、痒みはゼロです。 しかし胸やお腹部分に1~3か所だけ膿皮症が残ります。外用軟膏も頑張っているのですが・・・。 「よし!もっとシャンプー頑張ろう!」として良い子と悪い子がいます。この子はどうも聞いていると肌が繊細なので、シャンプーを減らし、むしろ保湿入浴剤だけにしました。




ついに膿皮症は全く出なく無くなりました!痒みもアポキル等をしなくても有りません。今回の治療の一番の立役者は来院して、僕がお願いした事をしてくれたご家族様です。有難うございます。

スキンケアと食事、もしくはその両方が功を奏したと思いますので「犬アトピー性皮膚炎と食物アレルギーの混合型で発生した難治性の膿皮症」でアレルギーに分類しても良いのかも知れませんが、膿皮症で悩まれている方は多いので、敢えてこちらに入れました。 と、言うか皮膚科診察室のページの冒頭でお書きした様に、当院で症例として載せている子は単純に何か一つが原因では無い子が多いです。
膿皮症は完全に治療した!と思っても再発する事が残念ながら当院でも多いです。

多くは「ご飯のコントロールができない」「スキンケアを止めてしまった」などが主な原因ですが、「耐性菌がどんどんできてしまう(外用をしっかりしても)」「加齢で別の病気になってしまった影響(腫瘍・ホルモン・肝臓・・・)」「環境が変わった(ストレスも含め)」等もあります。その度にまたしっかりと元からやり直すと殆どは改善するのですが、やっぱり大変な事もあります。そして老化には抗えない部分もあります。

それでも必ずできる事はあるので、諦めず寄り添う獣医師でありたいと思っています。 この子が再発しないで安定して過ごせる事を願っています。