(感染症の症例:14)元は膿皮症、悪化するのはコレのせい!(ステロイドのせいではありません)

ワンちゃん ミニチュアピンシュアー 初診時3歳9か月

■病歴:
1歳くらいから痒みが出始めています。冬から悪くなって、かなりしっかりと外用療法、アポキル(アトピーの薬)・抗生物質をしていますが、治るどころか悪化中で困って来院されました。この子も皮膚で有名な病院からの転院の子です。

■初診時: 基本的には皮膚で有名な病院からの転院では「ちゃんとすべき事を順に既にして下さっている」場合が基本的です。もちろん「皮膚で有名」だからと言っても、完璧だとも限らないのですが(自戒を込めて)、基本的には皮膚科認定医などの資格がある病院さんからの転院の場合は「すべき事をしている」のが通常です。
だからこそ「非常に難しい・時間が掛かる・手間やお金が必要」な場合と、逆に「すべき事をしてくれているので簡単」な場合があります。

逆に簡単、とは不思議な感じかも知れませんが、実際はその前に他の皮膚科専門医・認定医様とオーナー様の努力の軌跡があるから簡単なだけで、実際は難治なのは変わりません。 (つまり、当院への来院前にすごいイレギュラーな検査や治療を経て来院された場合は複雑に糸がこんがらがってしまっている場合も有ります)

この子は見た感じは酷い膿皮症です。・・・と言うか「その後」と言う感じです。
短毛種なので酷い虫食い状脱毛がありますが、気になるのはやたらとフケが多い事です。フケは膿皮症に続発して発生はしますが、凄く乾燥している感じがします。



背中


胸部



腰部

次は拡大写真です。


以前にも書きましたが、膿皮症は球菌が基本的な原因ですが、寄生虫や真菌が原因の事もあります。球菌だとしても耐性菌と言う手ごわい相手の事もあります。

さらにはアトピーやホルモンの問題が背後にある事があります。(それぞれ過去の症例紹介にあるので良かったら探してみて下さいね)

この様に膿皮症はしっかりと鑑別しないとダメですし、更にはしっかりと治療をしないとこじれてもしまうのですが、本当に皮膚科の治療が得意な先生だと基本的な事は既に「そんなのとっくにやっているよ」と言う事になります。

ここで先程の話になるのですが、ムチャクチャ珍しい病気や難治性の病気なのか、何かがチョット違うだけで簡単なのか?になります。

黒い毛だけが問題では無さそうなので、ブラックヘアーフォリキュラーディズィーズ(BHFD)では無さそうだし、経過や今の様子からも先天性の乾皮症とも思えません。でも今回は問診の時点で「たぶんそうなんじゃないかなぁ~」って事を予測していました。勘は大事ですが独断的な先入観は危険なので、それを判断する為に、一つ一つ鑑別診断を再度してからお伝えしました。

今、一生懸命洗っているシャンプーを止めちゃって、変えましょう!
いえ、前の病院もご家族も間違った事は全くされておりません。
洗う回数も週一回ですし適切な洗い方で、問題はありません。シャンプーの種類としても教科書的には合っていますし、正しい選択です。


ですが、この子が使用していたシャンプーはかなり注意して使わないと「異常に乾燥する」事になります。後から保湿しても、です。 今はシャンプー療法すら否定して入浴だけを薦める先生もおられます。
少なくとも外用療法は病気や皮膚の状態に合わせて選択する必要があります。でも「今現在は」使用しているシャンプーが合わない判断が下せるだけで、最初の使用が必ずしも間違っている訳では無いと思います。僕は上手く使えないのでチョット怖いのですが・・・。

それ以外には膿皮症と言うか乾燥に関しての治療を内から外から頑張ってみる事にします。凄く熱心なご家族様なので、協力して頂きたく思う事は全てさせて頂きました。こういう点も「先にちゃんと治療をしているけど難治で困られている」場合は熱意と覚悟が違うので非常に助かります。
ただし、乾燥だけを治せば良い訳でも無く、当然膿皮症の治療なども並行してさせて頂きます。基礎疾患には食物アレルギーも有りそうな感が有るので、そこも各種検査や丁寧な除去食の指導を並行しました。



さて無事に治ったのでしょうか・・・?


背中



腰部

顔と胸の毛は少し少ないですが、皮膚はフケもなく非常に良好です!
後はかなり減らしたアポキルすらも断薬出来れば食事が原因だけだった!でしょう。無理ならアトピーと食事アレルギーの併発かも知れません。
病気によっては完治は無く、一生のコントロールが必要な事もあります。難治性の皮膚病ではいつも説明が難しかったり、ご家族にして頂く要求が多かったりするのですが(投薬ひとつでも大変ですよね!)、そういう場合にも厳しい態度にならないで一緒に治療して喜びを共有したいと思っております。 それには御説明と勇気づけも、もっと努力したいと常に思っています。

今回もですが「この子を治したい!」と言う熱意で遠方から来て下さるご家族の気持ちとエネルギーが獣医師の治療の一番の応援になります。ありがとうございます。