(腫瘍の症例:12)日光に注意!扁平上皮癌は怖いです。

ネコちゃん MIX 初診時 6~7歳7か月 去勢オス

病歴: ノラさんなのでありません。
症状: 昨日捕まえたそうですが、耳が無い・・・との事です。近所のおばあさんが去勢をしてお世話をしていたそうですが、耳の事で困っているのをみかねた優しい方が保護してくれました。

真っ白な猫さんです。色が関係あるの?って思われそうですが、後で書きますが大ありです。

身体も痩せていて食欲もイマイチです。調べると猫エイズも陽性でした。

そりゃこんな耳では流石に食欲が落ちますね・・・。









ちょっと刺激的な写真になるので、苦手な人は見ないで下さいね。











両耳共に先がおかしくなっていますね。それもかなり痛々しい状態です。


右耳です。



左耳です。

さて外猫さんなので怪我なんでしょうか?それとも誰かに虐待をされた・・・?
実は少し詳しい獣医師ならすぐに思いつく病気があります。細胞診断をしてみます。

残念ながらやっぱり「扁平上皮癌の疑い」でした・・・。細胞診断では診断ができない事もやや多い腫瘍ですが、今回は分かりました。

扁平上皮癌は猫の皮膚腫瘍の15%、犬では5%と猫では割と多い困った腫瘍です。どう困るかと言うと、局所での症状が重度なのに「あまり転移しない(犬の扁桃腺や爪を除く)」のです。 転移しないなら良いじゃない!って思われるかも知れませんが、特に顔で多いので「どんどんと顔が溶けていく」けど「転移しないので割と元気にしている」事になってしまいます。

前回に書いた「ボーエン病」は扁平上皮癌は表皮内に留まるのですが、普通の扁平上皮癌はとにかく溶ける様に進行する事が多く、見た目的にも悲惨な事になったり場所的に取り切れない事が多いです。

日光(UVB)との関係が指摘されていたりパピローマウイルスとの関係が指摘されています。この子の様に白い猫さんが沢山日光を浴びると典型的に耳の先に病変が発生します。

かなり進行してしまって酷いのですが、耳ですので切除にかけるしかありません。ただしその場合は耳そのものを耳道からかなりごっそりと摘出する必要があります。耳の手術は痛いと言われますし費用も掛かります。それを両耳・・・。


正直言って決断して貰えるかと不安でしたが、本当に優しいご家族で順番に取る事に同意して頂けました。

まずは進行している右耳から切除します。切除の際には頭の半分が露出してしまう位に広範囲に切ります。その後に如何に上手に再閉鎖するか?力量が問われる手術です。 


反対の耳を同時にしたいですが、とてもじゃないですが皮膚が足りません!ですのでモーズペースト(白いクリームです)と言う局所で腫瘍細胞を硬結して排除するクリームをたっぷりと長く塗りました。それこそボーエン病ならこれで治る事もあるのですが・・・かなりガッチリ塗りましたので期待はしています。




右耳は順調に引っ付きました。まだちょっとカサブタがありますが、その後完全に治りました(後で写真が出ます)。穴の所が耳道ですね。




が、やっぱり扁平上皮癌は甘くありませんでした。 かなり大きめに長めにモーズペーストで固定をしましたが平気で左耳から腫瘍細胞が復活してきました。左耳を皮膚と身体の回復を1か月待ってから再手術です。




右耳でも同じ事をしているのですが、耳道のアップしたものです。根本のギリギリまで耳道を切除して、耳道の軟骨を周囲の皮膚に縫うので、カメさん・・・と言うかフェレットさんかな?みたいに穴だけが存在する事になります。


病理結果はしっかり取りきれたとの事ですが、ここまで悪化していたら今後は転移が心配になりますのでマメに術後の確認に来る事が大切です。
その後、ちょっとドラエモンさんみたいになりましたが、問題無く毛も生えて耳道も綺麗で良い感じになりました。


半年後の頭部全体です。目ヤニは相変わらず多いです。でも体重は1.5倍になりました!ちょっと幸せ太り過ぎですね(苦笑)。


右耳です。


左耳です。

ただし、まだまだ再発・転移に注意ですので、マメに確認させて頂き状況の応じて治療をしたいと思っております。大きな手術の術後はホッとしますが、フォローが大切です!ちなみに抗ガン剤による治療はあまり効果的では無い腫瘍です。