(アレルギーの症例:10)アトピーがこじれたら、ほどく順番があります。 ■柴犬
■病歴:毎年5月から悪化?今年は3月から胸中心に悪化して痒い。抗菌薬や内服のステロイドを毎日服用し、外用ステロイドを1か月連日塗っているが悪化する。もう3か月以上頑張って治らない・・・。
■初診時:割と全体は落ち着いているが、胸~脇だけ両方部分的に特に症状が強い。



↑右                          ↑その拡大

左右両脇に膿皮症と、それが拡大した表皮小環、その結果として脱毛や周囲の発赤があります。毛を掻きわけると丘疹や面皰(毛穴のつまり)など多数の皮膚病変が見つかります。

問診と視診からアトピーは有りそうですが、あまりに部分的に酷いです。 飲んでいるステロイドは長期連日投与(副作用が出るレベル)なのに、それにしては痒がっています(痒みスケール:5/10と中程度以上)。全体はステロイドで症状が抑えられていそうで、恐らく部分的に感染して、それが強い痒みを発生させてそうです。そこに熱心にステロイドを塗る事で、ステロイド皮膚症にもなって更に慢性・難治化していると思われました。

つまり「アトピー+膿皮症+ステロイド皮膚症」になってこじれていそうです。

こういう時に痒いからと更にステロイドを大量投与すると迷宮に入ります。
この子もむしろステロイドはやり過ぎで、減らす必要がある位でした(かと言って、急に切ると急激に皮膚や全身状態が悪化する恐れが有ります)。

痒みの防波堤になっていたステロイドですが、感染は助長しますので、ゆっくりと内服も外用ステロイドを共に段々減らします。同時に患部に対してしっかりと感染の治療をして、抗菌薬の内服もします。通常はこじれた膿皮症には「適切な細菌培養」が必須ですが、この子は残念ながら抗菌薬自体も適切な処方をされていなかったので、まず標準的な薬を確実にする事からスタートします。全てスタンダードです。

痒みを何とか抑えていたステロイドを抜いていくので、当然痒くて掻きます。それで自傷して悪化して見えますが、ここが第一の踏ん張りどころです!ポイントはちゃんと元の感染が治ってきている事を確認する事です。感染して赤いのと、自分で掻いて赤くなっているのを混同してはいけません。


右は治り、左は自傷しているだけ

この状態でご家族の方が「悪化したやん!」と転院されたら最悪です(苦笑)。しっかりお話して、一緒に治していく事が大切です。信じて治療して頂き感謝です。

ちゃんと感染症を治す。教科書的には、これをしないで次のステップには行けません。 しかし現実問題は「早く痒みを止める」も必要になります。これにはステロイドが有効ですが、色々な副作用の1つとして感染を助長したり難治性にしたりする側面が有り、感染症が存在して上手に使うのは難しい薬です。今またステロイドをするのは得策ではありません。

今は効果が殆ど同じで副作用が少ないアポキルが有ります。それでもアポキルはステロイドと同じ様に免疫に作用する薬ですので、感染には悪影響も有り得ます。使わないで済んだらベストです。ただ現実は「ある程度感染をコントロールしたら、痒みもコントロールする」が必要な場合もあり、これが獣医師のさじ加減でありご家族の頑張りどころになります。
【注】今は日本に無いのですが、もうすぐ抗体療法として「サイトポイント」と言う注射が出て痒みは安全に素早くコントロールが可能になり、治療方法も変わるでしょう。

8~9割方感染を抑えたと思える所で、それを10割にする努力をしつつ、痒み(アトピー)の治療をアポキルで開始します。この間にIgE抗体でのアレルギー検査を行い、薬に頼らないコントロールができそうかも模索します(痒みに季節性があり、更にそれが年中に悪化しそうな傾向があるので)。

感染症を治し、アトピーの痒みを止めれば治るか?と言うと慢性化した皮膚には不十分です。十分な保湿と保護が必要です!皮膚や毛が本来の機能を取り戻せないと、治療には大量の薬や手間が必要になってしまいます。この子はまだまだ戻せます。


まだ真夏ですが、かなり良い感じになってくれています。色素沈着は悪化した皮膚のその後の出現は仕方ありません(改善していくと消失したり薄くなったりはします)。

脱毛は有りますが、皮膚は安心な状態ですので、そろそろ抗菌薬も止め(3週間)、シャンプー・保湿も減らし、そして痒み止めも止めていきます(1か月しっかり、その後漸減)。ゆっくりと焦らず・・・。



もう何の投薬もしていません!シャンプー療法も2週1回です。秋前に治ってくれました。

ひとまず集中ケアは終了です。この子はIgE抗体の反応には乏しくて具体的アドバイスができなかったのですが、春から悪化する傾向が段々と年中に拡大する恐れがあります。まずは2~3月から悪化の指標になる両脇~前胸部をよく確認して、来年は早めの投薬とスキンケアをするのが良いかも知れません。

当院では治療には検査結果に加えて、診察メモで「何が原因と思われるか?これからどうなりそうか?治りそうか?何をしたら良いのか?経過はどうなりそうか?」等を丁寧にお話する様にしております。それにより今回も継続治療をして頂けたとは思いますが、結局はご家族の皆様のご理解と不断の努力の賜物だな・・・といつも思います。ありがとうございます。