(アレルギーの症例:11)食物アレルギーだと思いましたが、治療に苦慮した子 ■ワンちゃん イタリアングレーハウンド 初診時6歳11か月
■病 歴:軟便や体重減少を伴った皮膚症状で他院に来院。症状は顔面中心、あまり痒くない?抗菌薬とステロイド(途中甲状腺ホルモンを併用)そして低分子食で一度良くなるが、秋から悪化して抗真菌薬を併用したが、ステロイド等を飲んだら吐くなどでコントロール不良になり、当院を紹介来院。
■初診時:頭部中心に痂疲を伴った発赤や丘疹、痒みも10段階で4とあり。消化器症状は続く。血尿も最近は出ている。他院からのご紹介なのですが、基本的にしっかりとすべき事をされていました。


↑鼻先                          ↑後頭部
顔面全体に分厚めの痂疲を伴って皮膚炎がまんべんなく存在します。耳介も赤いです。 しばらくすると腹部にも発赤などの皮膚病変がハッキリ出てきました。



↑体格も不良です

基本的な検査や治療はされています。寄生虫の予防に至っては通年で切らさずにちゃんとされておられます。新しくできる事はあるのか・・・病歴・治療歴等を確認すると、どうやら食事に関してはまだチャレンジできる事がありそうです。

食物アレルギー(不耐性)とアトピーは区別するのは時に難しいのですが、幾つかの鑑別に役立つポイントが報告されています。食事が関与している場合は以下が特徴だとの報告があります。

*通年の痒み

*程度の強い痒み

*通常量のステロイドやアポキルが効き難い痒み

*下痢などの消化器症状や糞便回数の増加

*顔や肛門、腰の症状

*初発年齢が1歳以下と凄く若い(または7歳以上と高齢)


これらは必ず起こる訳では無いのが困りものですが、幾つかが重なると怪しくなるポイントです。この子の場合もそうですが、当てはまるポイントが多く(特に消化器症状)、鑑別として食物アレルギー(関連性皮膚疾患)は除外したいところです。 よって、通常はすぐにする事は少ないのですが、Ⅰ型アレルギー検査(IgE抗体)とⅣ型アレルギー検査(リンパ球)を行いました。現在ステロイドも投与をしていないタイミングなので、本格的な治療開始前がベストとの判断もありました。

ハウスダストやカビ、草木などの環境アレルゲンを主に検査するⅠ型アレルギーの検査は殆ど反応がありませんでした。 食事に関与していると言われるⅣ型アレルギーのリンパ球反応検査はどうでしょうか?

かなり明確な陽性反応が認められました!

実はこの検査体系を構築した先生とお話したのですが、非常に解釈に注意を要する検査です。まず同じ個体でも日内変動等の影響も大きいですし、違う食材でも交差性を考慮しなくてはなりません(しかし実はIgE抗体とは違ってリンパ球に関しての交差性はよく分かってない!)。陽性は1.8から、要注意が1.2からですが、陰性であっても0.4以上は今後発症する可能性があり注意が必要です。 要するに0.4以下の食材で、限りなく0に近いものを一般的に言われる交差性も考えて選ぶのがポイントです。

では結果です。

陽性(1.8以上)・・・ジャガイモ(2.4)

要注意(1.2以上)・・・無し

陰性だけど0.4以上・・・小麦(0.4)・トウモロコシ(0.9)・タラ(0.5)エンドウ豆(0.6)・米(0.8)

これらは陰性も含めてできれば避けたい食材に入ります。

牛肉・豚肉・鶏肉・卵白・卵黄・牛乳・大豆・羊肉・馬肉・七面鳥・アヒル・サケは0.3以下でした。

さて、なんのご飯を食べるべきか・・・。

単純に考えると市販品ならピュアプロテインチキンが一番良さそうです。チキンとタピオカと菜種油だけで、その他の食材の混入に気を付けて作った特別なフードです。ただ、高価なのとサンプルが無いのが難点ですし、これがダメだともう後が無いです。

よって今回はK/O(カンガルー・オーツ麦)を選んでみました。カンガルーは進化的に他の種とは離れているので、交差性が非常に低いと言われます。少量の動物性の油脂はありますが、結果からは大丈夫そうです。小麦はギリ0.4で悩みましたが、オーツ麦は小麦アレルギーのヒトでもよく使われるそうなので試す事にしました。もちろん投薬やスキンケアもします! ジャガイモはナス科で交差性を考えると草(シラカバ・芝・ラテックスゴム)に関しても要注意です! この様な情報をお伝えするのも大切です。

食事が原因と疑う時には当初から高用量のステロイドを3~5日思いっきり使用して炎症を抑えてから治療に入る方が治療効果が早く出て鑑別も早いという方法が国内でも海外でも報告されています。

ただ、僕は副作用が心配なので通常のステロイドやアポキルの使い方で治療と鑑別を開始します。特に今回の子はお薬に弱くて、高用量での鑑別的な使い方はできませんでした。皮膚を早く治すのは大切ですが、全体の健康が第一だと常に思っています。外用療法は軽度の細菌感染はあるので、そのケアをしつつ保湿を頑張る事をしました。

やはり控えめに投薬したつもりでしたが、お薬に弱くて吐いたり下痢したりが・・・難しい。



全然良くないです。外用薬にも弱くて有害な反応が出やすいようで、悩みます。
食事療法で悪化するかは2週間、そして改善するかは2か月を目安に確認します。K/Oでは痒み自体は半分になった感もありましたし(ステロイドは最小限度の量でも)、便も少し固くなりました。しかし痒みは残るし、皮膚はスッキリせず、便の回数も1日8回くらいの事も・・・。
途中で食事療法をしている間に、同居犬のおこぼれを少し食べたり、骨ガムや犬用のハミガキを使用していたので厳密にコントロールをして頂いたりと頑張ったのですが・・・スッキリしません。痒みも激烈では無いですがステロイドを連用してもそんなに減りません(少量だからもあるでしょうが)。

もう十分に最初の療法食のK/Oを続けたので(2か月以上)、ピュアプロテインのチキンに変更しました。
すると明らかな改善が顕著に!もちろん継続したスキンケアの効果もあるとは思いますが、最適な食事をあげた時の改善力を久々にまざまざと見た感じでした!体もふっくら太りました。







少しだけ飲んでいたステロイドも完全に止めましたが、もう痒くも無いし皮膚も100点です。 便の回数も1~2回と正常化しました。便は逆に硬くて悩んでしまう位です。
ご家族の皆様には厳密な食事療法と共に、スキンケアもしっかりして貰って非常にありがたいです。 まだ年間を通しての再発のチェックは必要なのですが、豊かな食生活のためにもリンパ球反応検査をひとつの参考にして2週ごと1種ごとの食材探求で追加できるものを増やしていこうとご相談しています。

完全に食事が原因か?負荷試験をしてまで追求しようとは昔から思わないのですが、「再発とかイヤだし、治ってからは一生このご飯だけを続けて!」と以前は思っていましたが、自分の事を考えても豊かな食生活は大きな楽しみだと思います。愛情深いご家族の御意向に寄り添って食材を増やして、より楽しい日々を創る事は尊い事だな、と最近は思います。

・・・と、思っていたのですが、新しい食事(骨ガム)を追加したところ激烈な症状が出て一度元に戻ってしまいました。また熱心なご家族にお薬も頑張って頂き無事に元通りに治ってくれたのですが、心配でした。う~ん、食材は増やしてあげたいですが、その子の程度によっては厳密に食事療法をして頂く方が良いのかも知れません。

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