(アレルギーの症例:21)猫の皮膚炎は難しい!理由は・・・ ネコちゃん MIX猫 去勢オス 初診時:7歳位

病 歴:
3年前からの皮膚病です。3年頑張っても治らないし、痒みは十段階あるVAS指標で最大の10! ドカンと長期持続のステロイドも打って貰ったし、最近はシクロスポリンも頑張っていますが・・・。

初診時:
猫のよくある皮膚症状の一つ「頭頚部掻把痕」の酷いモノがあります。

頸部~肩の辺りです。

首だけでなくオデコにも有りますね。おっと、口の中も要確認です。舌に好酸球性肉芽腫の結節性病変ができる事も・・・今回はありませんでした。


右の前頭部です。

主訴としては頭部・頸部が第一に悪いのですが、これで診るのを止めてはいけませんね、 お腹にもかなりの症状があります・・・。


腹部です。

もしお腹だけに症状が有れば「膀胱炎」「股関節の疾患」等も舐める原因の鑑別として考えねばなりません。

猫は見た目で皮膚病名を付ける事は基本的にはできません。色んな病気で同じ症状になります。 ですが、痒みの程度や今までの治療経過からは確かにアトピー様の皮膚炎や何らかのアレルギーを疑える状況です。

すでにある程度の治療がされているけど、功を奏していない時には根本的に間違っている事も有りますが、基本的には見逃されている事を考える必要が有る事が多いです。

その多くには感染と食事が有ると思っています。感染に関しては「当初から問題」の場合と、「当初は大丈夫だったが、ステロイドの副作用や搔き壊して皮膚バリアが消失して二次的に発生」の両方のパターンが有ります。 以前の症例紹介にも書きましたが、アレルギーだろうと思っていたら真菌だったり(または後から真菌感染が生じたり)、アレルギーだけどいつの間にか細菌感染がメインになっていたり・・・が有ります。この子にも真菌の検査を改めてしましたが、大丈夫でした。

しかしながら皮膚のスタンプ細胞診をしたら好酸球の出現した典型的なアレルギー反応以外にも球菌の感染(そこに球菌が存在するのとは違います)が認められました。猫は基本的には犬の様に膿皮症になる事は少ないのですが、アレルギーの合併症としては約5割が報告されています。 ですので、抗菌療法を内服と外用で強化しました。

食事に関しては確率的にはそれだけが問題である事は少ないです。文献にもよりますが、多くの認定医や専門医の意見としても1~2割弱と考える人が多いです。食事が原因の場合は猫で原因は牛肉18%・魚17%・チキン5%・小麦やトウモロコシが4%とも言われますが、恐らくこれらは基本的によく食べている食材だからだけでしょう。 とりあえずは今の食生活で食べているモノを「除去」して新しくする事が大切です。ただ一般の食事では表示している食材と実際に入っている食材との不一致も多く十分には信頼はできません。

ちなみに検査で食事の問題が原因かどうか分かるか?ですが、現状はやっと抗体(IgE)の検査で信頼できるものは出てきましたが、残念ながら食事の選択に対してはあまり有効ではありません。有効なのは唾液に含まれているIgAやIgMの検査やリンパ球の検査と言われますが、商業的に利用できるものは現在ありません。ですのでとにかく今と今までの食材を考えて、信頼できるフードで「「除去&変更」する事です。無理なら最低限「制限」はして頂きます。今回もそれをお勧めはしましたが・・・ちょっと難しい感じです(汗)。

猫にも心因性の原因はあると言われますので、問診では確かめますしストレスを減らす事は努力して頂きますが「心因性だと診断された猫21症例を徹底して食事管理したら12例が治った」と言う有名な論文が有りますので、まずは食事のコントロールを頑張りたいですが、まずは食べる事の方が大切です。 猫なので洗ったりも難しい事が多いですが、この子もそうでした。

残念ながらとりあえずは諦める治療方法もありますが、今回の治療に際しては逆に投薬量を減らして貰った薬もあります。 最初はステロイドはとりあえずガツンと再度使います。猫は特に中途半端では効かない事も多いです。もちろん血液検査もして、心不全のリスクなどもお話して・・・。 さて2週でどうなるでしょう?



ジュクジュクしていた所は痂疲(カサブタ)になり痒みは殆ど消失しましたが、まだまだです。

さらに2週・・・。

食事変更は可能な範囲で制限して(除去食による食事療法にはなっていません)、ステロイドは減らしつつ、



更にはステロイドも止めてみます。



ほとんど良くなった引きのショットです。



痒みも全くありません!

でもお腹はもう一息ですね。


恐らく薬(シクロスポリン)は完全には止めれないです。またもっと厳密な除去食も必要かも知れないです(基本的に効果は1か月で約8割判定できると言われます)。ただし食事だけで完全に治る可能性の方が残念ながら少ないのが現実です。

やった~と思っていたら2か月後、薬が飲めなくなってご来院されました・・・残念ですが「猫あるある」です。全体的な痒みは半減以下で、重度だった頸部の症状も無く悪化は腹部だけですが今のところは投薬は止めれなさそうです。


頸部は完全に発毛していました。

食事療法への挑戦も滞っていたので何か合うご飯があるか?投薬しながら試す事も頑張りたいものです。 ただし、前述の様に純粋な食物アレルギー(食物有害反応)である確率は低いです。

投薬に関しては剤形を変えたり色々とアドバイスをしてみます。健康を考えると注射のステロイドをメインに使い続けるのは健康上は避けたいです。内服が上手にできると良いのですが・・・。

猫さんの皮膚病は難しい事も多くて、僕も困る事が有ります。難しい理由として病気の解明が進んでいなかったり、仕えるツールが犬より少なかったり(薬だけでなく食事や外用も)、色々と有るのですが単純に「薬が飲めない」「身体が洗えない」「薬を塗れない」「カラー付けれない」「服が着れない」「食事が変えれない」もう何なら「連れて来れない!」って場合もあります。

そんな中でも「できる事をする!」「その為に提案をできるだけ多くする!」を意識してご家族の方と治療をしたいと思っております。でも諦めて来院されなくなる事もあります・・・もっと勉強してお役にたてる様になりたいと思っています。