(ホルモン性疾患の症例:7)難治性の膿皮症として来院されました ■ワンちゃん・ポメラニアン・♂・初診時4歳9か月

■既往歴:左の鼠径(股)ヘルニアの手術以外は至って健康。昔から外耳炎は多かったそうですが、皮膚の問題は4歳になってからです。チキンアレルギー?と言う事でチキンを中止してラム&ライスを食べているそうです。

■初診時:確かに先月色んな薬で治療したのに可哀想な状態です・・・。膿皮症、それが進行した表皮小環や脱毛が全身にあります。

春先に、ひとつ目の京都の有名な病院(良い先生です)ではアトピー&食事アレルギーかな?と言う頃でステロイド・アポキルそしてスキンケア(抗菌シャンプーを含む) をして貰ったそうで、その時には一度治っています。
夏に行った2つ目の病院では同様の診断で同じ感じで治療をしていますが、全然治ってくれずに難治性になっています。

問診時点で気になったのは両病院共に膿皮症の治療と並行してアポキルやステロイドといった免疫に影響する薬を使ったので難治性を産みだしたのかも知れない・・・という点です。 でも再発性の膿皮症の4割はアトピーが素因とも言われますし、上手に使えれば方法の一つだとは思います(リスクはありますので、僕は他の方法をしますが)。 2つ目の病院ではちょっと抗菌薬の使用方法を間違っている感じでしたので、それも難治性の原因かな?とも考えました。 それよりも2つの病院の治療の合間や、治療後には痒みはそんなに無いんだよなぁ・・・アトピーや食事アレルギーならありそうですが・・・。

視診では脱毛や被毛の感じがポメラニアンで多い「アロペジアX(毛周期停止)」っぽいのも気になります。これは二次的に膿皮症になり易いです。 しかしながら、何か変な感じが・・・これはもう勘ですが。


順に右内股・下腹部・胸部です。

アップにしてみると典型的な膿皮症です。顕微鏡レベルで球菌の確認もできました。カビ(マラセチア・糸状菌)はいなさそうです。



順に表皮小環、そのアップ、そして顕微鏡画像です。白血球(薄い紫の核を持つ)に球菌(濃い紫の点々)が食べられています。


■治療経過:
こういう時に感染の鑑別を軽くしてしまうのは良くありません。必ず改めて上記の様に顕微鏡や培養や試験的な駆虫をしっかりと行います(もちろん費用的に厳しい場合は相談して)。 この子が球菌の感染をしている事は間違いないので、それは王道に則ってしっかりと治します。転院症例では細菌培養も積極的に行います(これも相談の上)。 やはり球菌はS.pseudinermediusでしたが、耐性菌では有りませんでした。一回治すのは容易そうです。しかし問題は再発です。
膿皮症の治療が甘かったから再発したのでしょうか?それはステロイド等を併用していますし、2度目の抗菌薬の内服は普通の方法では無かったので、有り得ます。 アトピーだからでしょうか?食物アレルギーだからでしょうか?アロペジアX(毛周期停止)だからでしょうか? 全部有り得ます しかしながら、よく視診をすると「鼻の上と尾の脱毛が多め」です。そして若干貧血気味です。・・・4歳だけど甲状腺機能低下症は調べた方が良いかな・・・。ムチャクチャ元気で他に症状も無く、こんなに若い子に最初から検査を勧めるのは一歩間違うとボッタクリに思われるのですが、思い切って3種類ある甲状腺ホルモンの検査を全部盛で勧めました! ご家族は信頼頂き、一番高くて詳しい甲状腺の検査セットを受けて下さいました。
ちなみにこの時点で1か月何の投薬も受けていません。この様な時は鑑別診断のチャンスなのも僕が強く検査を勧めたポイントです。。

甲状腺の値はT4・FT4が共に全く検出されないレベルに低く、甲状腺刺激ホルモンTSHは正常の2倍位でした(脳が甲状腺刺激の命令を過剰に出しても、この子は甲状腺のホルモンが出せない)。思ったよりもかなりハッキリした甲状腺機能低下症でした。診断の特異度は98%を超えるので間違いは無さそうですが、正直この若さでこの元気で、この体形で・・・とビックリしました。 やっぱり先入観は持ってはいけないし、ちょっとした兆候を見逃さないのは大事だなぁ・・・と改めて思いました。

さて膿皮症の治療と甲状腺機能低下症の治療だけで完治して再発しないでしょうか・・・?大事なポイントは「更にアトピーもある」「更に食物アレルギーもある」「更にアロペジアX(毛周期停止)もある」かも知れない、とう事です。

膿皮症は1か月内ですぐに良くなり、さらに3か月後!


左から「おしり」「お腹」「胸」です。ふっさふさに!!
もうスキンケアは10日に1回ですが、膿皮症はありません。もちろん抗菌薬の投与もしていません。

アレルギー系の内服をしなくても全然痒くありません(そもそも膿皮症が無いと痒く無いのでアトピーや食物アレルギーは否定的です。季節的な変化は要注意です)。 鼻や尾も含めてフサフサです!(甲状腺の薬で毛周期が刺激される事はありますが、基本的にアロペジアXは甲状腺の薬で治せません。そもそもアロペジアXだと頭部に脱毛が無いのが基本です).
食事は特に厳密にコントロールはしていませんが、念の為に食べているモノの把握と制限はして頂きます。今後の事もありますしね。

ご家族は仕事柄もワンちゃんの事を良く知っておられる方なので、今後の様子見も安心です。ちなみに甲状腺の投薬に関してはこの子が凄く若い事なども考慮して1日1回タイプでコントロールを始めましたが、非常に良好です。 同じ病気でも色んなやり方を知って、その子とご家族が長く続けやすい方法をご提案したいと常に思っております。

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