■病歴:特発性てんかん・尿石症(ストラバイト)・過誤腫・鼠径ヘルニア・外耳炎からの中耳炎(多剤耐性)
■症状: 10か月前からの長いストーリーがあります。この間に季節は春から冬になりましたが、全然治らずで他院からご紹介頂きました。 顔から始まった脱毛が全身、特に手足にも目立って広がっています。 痒みは全然ありません。これは大事な情報です。各種感染症の検査でも何も検出されません。培養まで頑張っていますが、何も・・・。
途中で起こった中耳炎はきちんと培養して治されています。しっかりとした病院さんなので標準治療を適切にされています。
それでも全然治らないのは珍しい病気だと言う事を示していそうです。
頭頂部を中心に脱毛と色素沈着があります。
・・・カビ?
全然皮膚科をされていないと「あ~アレルギーですね~」と言われてしまうかも知れないですが、もちろん痒くないので違います。
当然感染症の除外は必要です!皮膚科をされてなくても、ある程度診察されている病院だと「これはカビかな?」と感染症を疑いたくなります。カビは意外と痒みを出さない事は多いです。ご紹介病院も治療歴からはしっかりと鑑別して頂いています。
治っていなくても、ちゃんと診療されていると除外診断が済んでいて、こちらとしても次の検査を御説明しやすくて凄く助かります。
でも皮膚科をある程度診ている病院だと「あ~あれっぽい・・・」と想像します。
それは「皮膚筋炎」です。シェルティやコリーで若齢(2~7か月)で家族性に先天性・遺伝性に発生する病気です。顔面や四肢や尾といった圧力がかかり易い場所で非常に典型的な症状を起こします。
まさしくこの病変が典型的な見た目です。1年以内に治ったり進行が止まる事も有りますが、一部では筋炎に進行して重篤化します。 病理をしていないと症例報告には載せにくくて載せていませんが、当院でも「アトピー」と言われてこの病気で、自然治癒しているシェルティさんが居ます。
でも・・・この子は高齢のチワワさんです。全然若いシェルティ・コリー系犬種では無いですが、どうなんでしょう?
アップで見ても、各種検査をしてもどうしても感染には思えません。もうあの病気でしょう!
通常は命に関わる皮膚病で無ければ即日の皮膚生検はしませんが、非常に熱心なご家族で長く悩まれてご希望も有ったので、頑張って局所麻酔で即日皮膚生検をしました。
「基底細胞の空胞変性とアポトーシスを伴う多発性萎縮性皮膚炎(虚血性皮膚疾患疑い)」」 の病理結果が返ってきました
やっぱりそうでした!
これは血管に炎症や病変が生じる事により発生する皮膚疾患でイヌでは5つの病態が知られています。
代表的なのが(それでもマニアックですが)Canine familial dermatomyositis :DMです。上述したシェルティやコリーに若齢で発生する家族性皮膚筋炎と呼ばれる疾患です。
それ以外に「他犬種のDM様疾患」「狂犬病後の局所的虚血性皮膚疾患」「狂犬病後の全身性の虚血性皮膚疾患」「狂犬病との関連性を認めない成犬の全身性虚血性皮膚疾患」が有ります。
この子は・・・発症の1か月前に混合ワクチンを接種しています。恐らくはそれが引き金になったのでしょう。 もちろん打った獣医さんは何も悪くありませんし、ごく稀に発生する確率の問題です。ただ、その様な副作用を減らす為にも、今後はワクチンを定期的に接種する方法から抗体価検査をして必要性があれば接種する方向に変わっていくと思います。
この様な場合もあるので、やっぱり抗体価検査でワクチン接種を最低限にしたいな・・・と改めて思いました。
さて治療ですが、高用量のステロイドとビタミンEを投与する方法も有りますが、瘢痕化して毛根が消滅していれば結局は治りません。これ以上の拡大を警戒しつつも(筋炎も含めて)、しないならば副作用の危険性が高い治療で無理をしないで血行を促進しながら見守る事にしました。 進行が止まって、更には生えてくれるのか・・・
頭はまだ剥げていますが、進行は明らかにストップして、残った毛根からは発毛してくれていそうです。もっとハッキリ発毛して欲しいですが・・・。
身体に負担を掛けて命がけで発毛させるチャレンジは僕は得策と思いません。もちろん脱毛が進行して、皮膚筋炎になれば待ったなしで強力な治療をしますが、そうでなければ穏やかな治療で回復に期待したいです。もう少し発毛を促す治療を増やすか?は相談中ですが、もっと発毛して新たなお写真を載せれる様に優しいご家族と見守りたいと思います。