(感染症の症例:16)アトピーからの指間炎は多いですが・・・ ワンちゃん ボストンテリア 初診時7歳 9か月

■病歴:
1歳の時にケーキを食べて顔面腫脹になって救急病院に行った事があるそうです。アレルギー体質はあるかも?ですね。

去年から皮膚の痒みが発生したそうです。ちょっとアトピーにしては発症が遅めですね。食物アレルギーは1歳未満の発症が多いのですが6~7歳を超えての高齢発症パターンも多く二峰性だそうですので、食物アレルギーの可能性は頭に置いた方が良さそうです。 近医さんでの治療としてはアポキルが基本で、抗菌薬や悪い時のステロイド投与(本当はアポキルとの併用は要注意)をし、皮膚の為にアンチノール(脂肪酸)や乳酸菌まで与えてくれています。でも冬を挟んでも半年位手足(特に足)の状態が悪くて来院されました。 食事はオールスキンバリアと言う最新の皮膚用の食事を食べていますが、手作り食も同時に食べて無添加とは言えボーロも食べているので、豊かな美味しそうな食生活ですが、食物アレルギーへの対応としては、まだスタートができていない状態です。

■初診時:
手足だけで無く、他の部分も丁寧に診ます。各種投薬はしているので全体的には口周りが赤い程度ですが、右眼を擦ったのか少し小さい傷が角膜に入っていて、右肩に膿皮症の後の様な虫喰い状の脱毛があります。
一番気になるのは足との事ですが・・・。

ん?アトピーでも食物アレルギーでも指間炎は多いですが、これはちょっと違うかも知れないです。



右足です。指間は確かに赤いですが、爪の根元はもっと赤く、そして何よりも爪の基部でカサブタが沢山あります。


左足です。爪も全体におかしいのですが、特に一本は折れそうに変形しています。爪の基部に至る問題がありそうです。



アップです。爪の根元の感染から排膿し、それがカサブタになっている様子です。これは元々はアトピーや食物アレルギーが原因かも知れませんが、一番問題になっている事は現在は爪の根元の感染「爪周囲炎」であり、それで頑張ってアトピーへの投薬をしても気になって舐めてしまい、また感染が治らなくなってしまっていると思えました。 アトピーやアレルギーの症状を抑えるアポキルやステロイドは炎症を抑えると同時に結果として感染を助長してしまう事があります。

また各種投薬やサプリまで頑張ってはいるのですが、大切な事を忘れています。

局所的なケアです!外耳炎を内服とサプリだけで治そうとしても無理が有るのと同じ位で現状の治療では難しいです。

ですので局所のケアを追加しました。ベースとして「薬用シャンプー」で洗い、日々のケアは洗い流さなくて大丈夫なムースで行い、爪の基部には特別に良く効く事が多い抗菌薬の軟膏を使用します。それも使用回数などに爪周囲辺に対するコツを踏まえて行います。

内服はステロイドとアポキルは中止です。炎症は強いし痛そうなので、代わりに少しステロイドを休薬してから別の腫れ止め(痛み止め)を使用します。

じゃあ感染っぽいならと抗菌薬をガッツリ投与!・・・ではダメです(下記参照)。本当に菌が原因なのか?それがブドウ球菌っぽいのか?他の病気じゃないのか??を確認しなくてはいけません。ちゃんと「ブドウ球菌の感染」を確認してブドウ球菌に合わせた抗菌薬を追加しました。もちろん抗菌薬の選択の為に最初から培養をしても良いとは思いましたが、コスト的な事も相談して、まずは経験的によく効くと思われる抗菌薬を投与しました。

治らなかったら細菌培養をするのは必須ですよ、とお伝えだけして10日間が経ちました。 それだけで足を気にする事は激減し、分泌も腫れも改善しました!

感染が落ち着いた所でアトピーの治療として外用のステロイドと少量のアポキルを再開です。近医さんでは維持では1日1度の投薬指示でしたが、薬の特性を考えて半量で2回にしました(これは論文でも有効性を確認されている添付文書には無いチョットしたコツです)。


半年以上悩んでいた足ですが、1か月後にはほぼ治りました。アトピーはあるので指間炎はありますが、もう分泌物や痂疲は無く、感染はありません!本人も以前の様に寝れない様な重度の痒み(痛み?)は無いようです。根本からはキレイな爪も生えてきました。




後はアトピーや食物アレルギーの治療は継続しなくてはならないです。特に食事コントロールを始める意味は大きそうです。もちろん爪周囲炎の主因が続けば感染の再発は要注意です。

今回の爪周囲炎はアトピーや食物アレルギーが主因となってブドウ球菌の感染の副因で悪化したと考えていますが、実は爪周囲炎は奥が深いです。

「ブドウ球菌の感染」の他にも「マラセチア(カビ)」「糸状菌(カビ)」「腫瘍(扁平上皮癌とか)」「狼瘡状易栄養性(Symmetric lupoid onychodystrophy:対称性ループス様易栄養症)」「亜鉛反応性皮膚症(ハスキーとかで多いですが、他の犬でも)」「落葉状天疱瘡(特に猫で!!)」「接合部型表皮水疱症」などがあります。

もちろん爪の根元に何かあるぞ?感染かな?とすら思わないのは問題なのですが、単純にあ!分泌物、感染だ~!ってならずに、 「年齢は?」「犬種は?」「何を食べている?」「全部の肢がなっている?」「全身の皮膚は?粘膜病変は無い?」「分泌物の性状は?」等々の情報を集め、場合によっては皮膚生検もして総合的に診断しなくてはいけません。 コーネル大学の研究では「感染が3%」「外傷が39%」「腫瘍が21%」「特発性が30%」「自己免疫性疾患が4%」との話もある位です。また治療に反応したからと言って抗菌薬をすぐに止めない事も大切です。

この様に鑑別したり説明したりして、よくご理解頂き日々の投薬や外用療法を適切にして下さるご家族が居て初めて病気が治るので本当に1つのチームの様に思います。当院では最良かつなるべく最短方法(楽な方法、コストの掛からない方法)を一緒に考え、病気に対しての慎重な鑑別と詳しいご説明をしながら、一緒に治療をしたいと思っております。