(その他の症例:16)何らかの自己免疫性疾患かと思いましたが・・・。 ワンちゃん キャバリア 避妊メス 1歳9か月
■病歴:
若くて元気で、予防しかした事がありません!

■初診時:

急患さんで来院されました!脇?に急速に痛みがあり、お腹が赤いそうです。
1週前にトリミングに行った以外は全く思い当たる事も無いそうです。ちなみに発情は3か月前に普通に終わっています。

症状は急速で激烈でご家族の方も心配されてすぐに来院した位ですが、当の本人は食欲も元気も有って、尻尾フリフリで可愛いです。でも身体は触れられるのはイヤそうですね、どれどれ・・・。

え!?これはちょっと毛刈りをしなくてはなりませんね・・・。


胸部から腹部です。

毛があるとまだ軽いと見えていましたが、刈ると相当すごい事になっています。一見して以前にも紹介した蕁麻疹にも見えるかも知れませんが、膨疹では無く触れるとハッキリ違います。



左足の大腿部外側です。

足まで地図上の紅斑が広がって凄い事になっています。背中にも多数あって一部では痂疲(カサブタ)を作り始めています。
これは「全身の血液検査」と「皮膚生検」が必要になります。当の本人は元気一杯なので何故!?って思われても仕方がない状態ですが、ご家族にはすぐにご理解頂きました。皮膚は凄い症状ですからね・・・。さてまずはすぐに分かる血液検査ですが、どうでしょうか?

やっぱり・・・白血球数が急性炎症像を伴って通常の4倍位になり、貧血が起き、血小板が激減しています!身体の炎症を示すCRPは正常の10倍に・・・ただし他の各臓器の検査には異常値はありませんでした(後に子宮疾患も否定)。すぐに自己免疫性の疾患の検査「クームス試験」「抗核抗体(ANA)検査」も追加します。これで皮膚生検もしたら相当に高額になる流れですが、事態の大きさを丁寧に説明してご理解頂けましたので、迅速に行いました。後から振り返ってもこの判断の意味は非常に大きかったです。

この時点でガラス圧迫法で皮下出血による紫斑では無く「紅皮」だと思いましたが、血小板も無いし貧血もしているので紫斑も混在しているかも知れないし、継続するかも知れません。急性炎症が自己免疫性疾患か?純粋な感染か?も治療方法に非常に影響します。色んな事が皮膚生検の結果が欲しいところですが、ここは思い切ってまずは高用量のステロイドを施す事を決断しました。今が元気一杯なだけに的を得て無ければ悪化する事になるリスクも有りますし、副作用で状態を悪くするリスクも有ります・・・。ですが、皮膚だけでなく血液検査の異常を考えても初期に思い切って多めにを使う事を選択しました。ご家族の皆様には決断に同意して頂き、本当に有難かったです。 もちろん同時に抗菌薬もしっかり使いますし、副作用防止の投薬もします。

3日で一気に発赤が消退しました!でもペロ~っと日焼けの後の様に表皮がめくれます・・・。


下腹部です。


どうやら何か特殊な皮膚病の様子です。ステロイドによる多飲多尿も下痢も起きて怖いのですが、抗菌薬を変更しつつステロイドはしっかりと使います。ステロイドは非常に有効な薬ですが、同時に副作用には辛い思い出も沢山あります。こういう時にブレないで治療するには経験も必要ですが、皮膚の病理検査の結果も必要です。例え初期に大量のステロイドを使うにしても、使い続けるべきなのか?に関しては「病名」もしくは「皮膚の病理的な状態の把握」が必要です。早く結果が欲しい!と祈る想いです。

更に日数が経つと、最初の患部がちょっと見た事が無い経過になっていますが、病理の報告前に「これはかなり浅い所の炎症だな」と分かります。深い場合は潰瘍となり大きな痂疲(カサブタ)ができたりします。ただし、背中には痂疲ができ始めていましたので、迅速に高用量のステロイドを使用した結果として浅層で炎症が止まって表皮だけが剥離してきたのかも知れません。



腹部です。

本人は相変わらず元気で、軟便も落ち着いてきましたが・・・白血球が更に倍になり、正常の何と8倍になりました。ステロイドを使った方が本当に良いのでしょうか・・・ステロイドをどのペースで減らすか?最終的に止めるか?悩むのですが、しっかり造血はしているのに貧血が進行し、血小板は増えません(涙)。やっぱりステロイドを更に多く使うべき・・・?更に他の免疫抑制剤を併用すべき??本当に悩ましい状態で当時は夢でも考えました。


ただ、クームス試験や抗核抗体(ANA)試験は陰性でしたし、比較的早く炎症が落ち着いている皮膚症状の経過と関節炎等の他の症状が出現しない事を考えて、今度は思い切ってステロイドを早めに減薬し始めました。もし自己免疫性疾患であればチョット早いかも知れません。


少しステロイドの手綱を緩めましたが、血液検査の異常は1週でピークを迎え、約2週で快方に向かってきました。キャバリアちゃんは無邪気に元気で、皮膚も安定して改善傾向なものの、更にステロイドの使用をどうするか?は病理待ちです。SLE(全身性エリテマトーデス)なのかEM(多型紅斑)なのかスィーツ病なのか、他の自己免疫性疾患なのか、紫斑だったのか・・・ついに20日間後に病理検査の結果が!

なんと「表在性拡大性膿皮症」でした!これはフツ~の細菌感染にも付けられる病名です。正直言って「え!?」って感じでした。相当な血球検査の異常(急性炎症反応を伴う重度の白血球増加・貧血・血小板減少症・身体の炎症の数値CRP上昇)が有りましたので・・・。

病理の先生とも相談したのですが、ブドウ球菌の毒素による重度の炎症を伴う病態の可能性があるのかも知れません。紅皮症だと思うのですが、ヒトだとブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群、トキショック症候群等が該当するのか・・・。獣医学の領域だとミニチュアシュナウザーではシャンプーによる無菌性膿胞性紅皮症なんてのも有ります。紅皮症には薬疹も有ります。 初日のヒドイ疼痛を考えると、ご家族が迅速に来院して下さり各種の検査を即座に行い強力に高用量のステロイドをので炎症の進行がストップしたけどスィーツ病で有った事の否定もできません。

何はともあれ!大事なのは細かい病名よりも、症状が迅速に消退した事実です。そしてこの病理結果ならば、堂々とステロイドを比較的早めにカットできそうです。結果が出てからは迷う事無く迅速な減薬をしました。自己免疫性疾患ではこうはできません。病理を早めにさせて頂いて本当に良かったです!さて発症から1か月でステロイドは完全に止めてしまいましたが、どうでしょう?本心を言えば少しだけ心配でしたが・・・。



胸部~腹部です。


腹部です。

スッカリ皮膚症状は消え、そして心配だった血液検査の異常も改善しました(1か月半で完全に正常化)。もちろん投薬は全て終了です。

今回の治療に関しては最初の段階で「いや~皮膚が赤くて気にしているのだけ止めてよ、検査とか要らないし。元気一杯じゃないですか。」とご家族に言われてしまっていたら、強力な治療はしなかったでしょうから、恐らくはこんなにスムーズに治らなかったと思っています。

そして逆に使い始めて効果があったステロイドを速やかに減量し止める方向にできたのは反応のチェックも有りますが、最終的には病理結果のお陰でした。同じステロイドでも「免疫抑制で使う」のと「炎症を抑える為に使う」のは違いますし、「短期を乗り越える為に使う」のと「一生コントロールしながら使い続ける」のは全然違う使い方になります。これも最初に決断して頂いたお陰です。アレルギーが基礎疾患になって表在性拡大性膿皮症(剥脱性膿皮症)になる事もあるそうです。今回は普通では無いですし、原因が何だったのか?は未だに心配な点ですので、これからも気を付けて様子を見て欲しいですが、すぐに異常を発見して全力を尽くして下さるご家族なので大丈夫でしょう。



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