(腫瘍の症例:10)肥満細胞腫の手術は大変ですが、特に大変で嬉しかった子 ワンちゃん 柴犬 初診時 12歳 去勢オス

病歴: 柴犬さんに多いアトピー性皮膚炎の子です。6歳の時に右肩の肥満細胞腫切除の手術をしています(これは比較的簡単な場所と状態でした)。後はたまに吐いたり下痢したりがありますが、元気に過ごしてくれています。

症状: 元々アトピーで皮膚を良くケアされてご覧になられていますが、肥満細胞腫を患ったのでちょっとした腫瘍にも気が付いてご相談を頂けました。 これは悪性の場合は非常に大事な事です。ただ、その場所が「尾」で、更に肥満細胞腫だと早くの発見でも簡単ではありません。

6年前に肥満細胞腫をしていますので体質は有るでしょうが、場所も違うし「再発」ではなく、パグやボクサーさんの様な「多発性」でもなさそうです。 ちなみにアトピーの治療薬のアポキルが腫瘍の発生率を上昇させる事は無い、と大規模な集団の長期間の検査で確認されています。

肥満細胞腫は周囲2cmと直下の筋膜以上を大きく切除する必要があります。場所によっては非常に難しくて断脚などの厳しい対応が必要になります。 尾は限られたスペースでたるみも無く、膠原繊維密度が高く皮膚はほとんど動きません。先っぽにできたら断尾するしかありません。

しかし・・・この子は根元に近く、転移皮弁を作れば切除と修復はギリギリ可能に思えました。柴犬と暮らしてきた僕としては、この子も元々立派な尻尾を持っていたので「尾を残せるかも知れませんが、どうされますか?」と伝えたい気持ちが溢れてしまいました。・・・凄い大変なのに・・・。

ご家族としては残せるものなら更に残したい気持ちは当然です!今まで喜びと共に振ってくれた「しっぽ」ですから。一緒に頑張る事にしました!


腫瘍を切り取ると尾の根元の皮膚は殆ど無くなります。それを右の太腿の後ろ半分を切除して折り返して尾の根元に移植(転移皮弁)する計画を立てました。ただ、転移皮弁をするなら前頸部などが多く尾にするのはかなり繊細な作業になります。

でも簡単そうに思えますか?トンデモないです!まずは形成外科的に決まった色々なルールで皮弁(太腿から切り取る方)の大きさや角度を決めます。かなりちゃんとしないと「皮膚が足らないで傷が埋まらない」事になります。でも結果としてビビる位に大きく切る事になります・・・参考:https://kyoto-yuu.jp/tumor_disease_7.html。

しかも水平方向だけでなく、垂直方向が大切です!犬猫の皮膚では人間とは違う皮膚の血管走行をしていますので、直接皮膚動静脈から血流が支給される様に大きな血管を温存して切り取る必要があります。ヒトの話ですが術後には皮膚の血流は通常の10%程度に下がると言われています(3週で120~150%になる)ので、とにかく血流の維持が大切です。 その為にも血流改善には塗り薬などでも色んな方策を術後に行いますが、最初の根本の皮弁形成を深部からする事を怠ると形だけは皮膚で覆えても、すぐに脱落してしまう事になります。

・・・と、言う事で、必然的に太腿側も筋膜を付けてかなり深く切除して皮弁を作らねばなりません。そうなると太腿の裏から肛門周囲には尾の血管だけでなく、第一から第三仙骨神経や坐骨神経や仙結節靭帯や浅外外尾尾動脈などがあり、切る時にはデリケートな僕の神経が磨り減る事になります。 皮だけ切って貼ってできたら楽なんですが・・・。大きな血管や神経や腱が切除中に顔を覗かせた時には冷汗がでます。

ですので、手術の1週前位から紙や布を切って模型を作って、解剖書などを開いてシュミレーションをしますが、夜中に急に起きて悩んだりを繰り返す事になります(苦笑)。




何とか綺麗に縫合できました!手術としては満足いく状態です。

でも実はこれ、術後の腫れや痛みが落ち着いた状態です。当然「腫れ止めや痛み止め」はしていますが、まぁその間はワンちゃんもご家族も病院スタッフも第二の修羅場ですね・・・1週位ですが、本当にしっかりして頂き 感謝に堪えません。いくら頑張って手術をしても術後管理ができなければ崩壊しますので・・・。





抜糸が終了しました! すごく良いです!万歳!!・・・と、思いたいですが心の中で思います。毛が生えてくれるんだろうか・・・と・・・。
やっぱりこの状態だと痛々しく感じてしまいますので、毛が生えて欲しいです。皮弁の感じからは大丈夫とは信じたいですが尾は特に心配です。




フサフサです!
しかも何だか白い毛(元々太腿の皮膚なので)がアクセントで更に可愛くすらあります。ご家族の皆様も「散歩中に評判です」と教えて下さいました。 何よりも性格が良い子なので、そのフサフサの尾っぽを振って病院で皆に挨拶をしてくれるのが嬉しくてたまりません。

その後再発も無く尾を残せて良かったなぁ・・・と思うのですが、手術前と手術後の心労を考えると、もう一度同じ手術はしたくないなぁ~とも思っちゃいます(苦笑)。 とにかく同じ手術を頑張っても、最終的にはワンちゃんとご家族の我慢と努力に大きく依存します。今回もその成果だと思っています。これは投薬やスキンケアも同じなのですが、いつも一緒に頑張れる様にしなくては・・・と思います。

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