(腫瘍の症例:11)アレルギー?猫でまれな上皮向性リンパ腫?実は・・・? ネコちゃん MIX 初診時 13歳7か月 去勢オス

病歴: 尿閉をした事はありますが、ずっと皮膚科は無縁の子です。
症状: 1年ほど前に症状が出始め、夏に悪化して他院に行かれたそうです。

全く痒くなかったそうですが、外用薬を塗ると気にして掻くので悪化したそうです。悪化して皮膚の検査をして「皮膚型のリンパ腫じゃないか?」と言われてセカンドオピニオンで来院されました。

痒くなかったと言う事はアトピーやアレルギーでは無いのか?夏に悪化したそうですが、外出はしないがノミダニ予防はしていないそうだけど、大丈夫かなぁ? (外出しなければマダニは基本的には大丈夫ですが、ノミは知らず知らずお家で繁殖する事があるので、皆さんも気をつけましょう!)

進行すると細胞診断でも上皮向性皮膚型リンパ腫の推察は可能ですが、高齢の犬はともかく猫は相当珍しいのですが、さてどうでしょう? 僕は正直、最初に問診表を見た時は「最初は痒く無かったとおっしゃられているけど後半は外用薬のせいか不明だけど痒がっているし、猫のアトピー様皮膚炎かな?色んな形態を取るから腫瘍にも見えるんだよな~」って思って診察を開始しました(汗)。



顎下の首(頸部)です。猫の頭頚部掻把痕はアレルギーを初めとして色んな病気で共通に認められますが、何かちょっと違う気が・・・?


猫には好酸球性肉芽腫性群と呼ばれる「反応パターン」があり、色んな原因で引き起こされます。毛刈りをしてしっかり拝見させて頂きましたが、好酸球性局面にしては凸凹していて何か違う感じです。立体的に盛り上がる好酸球性肉芽腫って線状で膝裏~大腿部とか舌だし、辺縁が隆起した潰瘍部分が有るけど無痛性潰瘍って口唇(特に上側)で起こるし、何か違う感じです。 他の皮膚はどうなんだろう?



あれ?よく探すと身体にも沢山この様に赤い炎症部分があります。確かにアレルギーでも全身性が有りますが、この子はそこまで痒くないんだよなぁ・・・痒そうなのですが。 それに何か変です。いつもの好酸球性局面みたいに感じません。



こういう時はダーマスコープを・・・色素沈着が目立つなぁ、上皮向性リンパ腫だと逆だよな。やっぱり病変は立体的かな?赤さが不整形だなぁ~とか、色々と考えてみますが、分かりません。


一番盛り上がった潰瘍の辺縁を、腫瘍であっても播種しない様に慎重に行いました(細胞診断でも色んなコツがあります)。前医様では細胞が殆ど取れなかったけど「数少ない細胞でリンパ腫と診断した」と言われていたなぁ~。



ん!?凄い細胞が取れた!

なるほど、この細胞が数個だけバラで見つかったらリンパ芽球とか思いますね。でもここまで調べさせて頂いたら病気はほぼ決定です。
「検査の為に、首の部分の大きな病変と、小さいお腹の病変を採らせて下さい。」「今回切除するのは治療の為でなく、あくまで検査の為です。ほとんど100%再発・多発します。」「でも上皮向性皮膚型リンパ腫と違って命に関わらないし、特効薬も使えると思いますよ!」悪い事も良い事もお伝えします。ちょっと高齢なのでご心配されていましたが、手術をさせて下さいました。

病理写真になります。上側が表皮で身体の表面で角質の方ですね。




正常な皮膚の解説をするスペースが無いので簡単になのですが・・・濃い紫の部分が腫瘍細胞です。




非常に嫌な感じなのですが、実はしっかりと上の部分(上皮内)に留まっています。




はなれた部分のお腹も同じ細胞の同じ広がり方が確認できました。決定です!


病理結果はやはり「ボーエン病(多中心性扁平上皮癌)」でした!でも一部は基底細胞癌になっていました。
検査のための切除でしたが、大きな範囲を切った首の部分も何とか完全切除もできていました。

猫のボーエン病はパピローマウイルスが関与して発生すると考えられています。これは人間でも尖圭コンジローマや子宮頸がんでお聞きになられた事があるかも知れません。もちろん猫と人ではお互いに関係無いですよ!

他の扁平上皮癌は猫では15%程度と結構多く、日光の関与が指摘されています(だから白い猫さんはひなたぼっこし過ぎるのは特に耳は注意です!)。あまり転移はしませんが、その部分で浸潤する為に顔にできたりすると顔が溶けたようになって、かなり悲惨です。 ですがボーエン病は中~高齢の猫で全身に多発性に起こるのですが、扁平上皮癌と違って被毛や色素のある部分で発生し、そしてゆっくりと大きくなります。転移も起こりませんが、稀に扁平上皮癌や基底細胞癌への悪性転換がみられる事があります。

上皮向性リンパ腫と違って命に関係無いのが基本なのが何よりですが、特効薬があるのも、しかも外用なのも良い点です!とは言っても猫に塗るのは大変です(しかも珍しい病気過ぎて標準的な使用方法は確立されていません)。 この点、家でちゃんと塗って下さるご家族の皆様が頼りですし、この子みたいにしっかりケアして貰えるのは本当に幸せな子だと思います! この首の綺麗さも続いてくれると信じています。




実は今回はある薬が手術前に奏効した気がしたのですが、まずは標準療法をしっかりとして頂き、その上で困ったらそのお薬を使うか相談をしようと思っています。たまに「あれ?この方法は良いのかな?」って偶然に思う事があるのですが、常に最新の標準治療を学び、まず第一に大切にしながら皮膚科の基礎知識に基づいた新しい療法を自分なりにも考えたいと思います。

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