(腫瘍の症例:5)多くてやっかいな肥満細胞腫、時には分子標的薬も使います! ワンちゃん フレンチブルドッグ 初診時 8歳11か月齢 メス避妊済み
病歴:
8カ月以上前からある胸のデキモノ?で来院されました。総合的な皮膚の外用薬や抗菌薬の内服には少しマシになる程度で治らないそうです。
ベタっとした扁平な皮膚病変で「タコ(胼胝)」の様に見えます。ミニチュアダックス等では胸の中央に擦れる事で同じ見た目の病変ができる事が有ります。


見た目では腫瘍か?すら不明な事も有ります・・・

一般的な皮膚病の検査をした上で、タコにしては少し厚みが有って変なので細胞診断もしました。「少数の肥満細胞が出現しており、炎症と共に肥満細胞腫の疑いが有る」 との事でした。良く調べると陰部の先にも3mm位の小さな膨らみが有ります。
まだ小さすぎて安全な細胞診断ができないのですが、どうやら犬種的にも多発する肥満細胞の病変の1つである可能性も有ります。


肥満細胞腫で有れば切り取る際には、周囲の正常組織を含めて相当大きく切除しますので、術前にステロイドで出来るだけ小さくして切り取る事が有ります。ですので、変化を診るのを兼ねて、外用ステロイドに加えて多めのステロイドの内服を併用しました。

3週程度して、病変は少し小さくなりました。 ですが、同時に普通では有り得ない位に肝数値が上昇しました!一見元気でもステロイドを多く投薬すると個体差で色んな反応が起きますので、投薬のしっぱなしは一番良く無い事を再確認しました。 段階的にステロイドを止めると、やっぱり胸も陰部もジワジワとですが、大きくなってきます。肥満細胞腫だと大きく成れば切除がどんどん困難になります。 陰部の膨らみが細胞診断できる大きさになったので行うと、意外な事にこちらが「肥満細胞腫」との診断でした。悪性度が低い方が肥満細胞腫と分かり易く、悪性度が高いと肥満細胞腫らしさが低い(未分化)事が有ります。後で判明しますが、細胞診断で肥満細胞腫と判断できなかった胸の方が高悪性度でした。

胸は大きく深く、筋膜も全部剥がして切除しました。陰部は排尿に問題が出る可能性が最小限になる範囲で切り取りました。この頃良く見ると左口唇の下側にも小さな紅色丘疹が有り、これも術前の細胞診断で肥満細胞腫疑いでした。やはり多発性の疑いが有ります。
手術はキレイにできたのですが予想以上に元気に動いたり、手術部に液が溜まったりして、胸部の手術部分が大きく開いてしまいました・・・。逆に排尿障害を心配していた陰部は良好でした。肥満細胞腫は本当に診断・手術・抗癌等の全てが色々でトラブルも多いです。


色々大変でしたがその後非常にキレイな状態を保ってくれています

手術そのものは完全に切り取られて良かったのですが、多発性かつ悪性度が高い事から、抗癌剤の治療を開始しました。この子はその軸となるステロイドが体質的に非常に合わないので、可能な方法が減ってしまいます。この場合、特に肥満細胞腫にC-KITと言う部位の遺伝子の異常が有れば「分子標的薬」と言う比較的効果的で経口投与で副作用が少ない薬が使用できますので、その遺伝子検査を行い「エクソン11にC-KIT異常」が有る事を確認しました。これで投薬の効果が高い事が確認されましたので、開始しました。

副作用が比較的少ない・・・とは言われますが、白血球が減少したりするので頻回の検査も必要ですし、血便や元気食欲不振の注意が必要になってきます。これは個人差が大きいのでマメにチェックして調整する事が大切です。

この子も様々な副作用が起きましたが、しっかりと状態を把握してご家族と連絡を取りながら治療を進められた為に抗癌治療を積極的に継続できました。一度は完全に寛解して症状が消失したのですが、抗癌剤を止めると鼠径(股)と腹腔内下腹部のリンパ節が腫れてきました・・・それを検査すると高悪性度を疑う肥満細胞腫の転移がハッキリと認められました。残念ですが、抗癌治療はどうしても継続せざるを得ません。

ただご家族が本当に熱心に心を込めて看護して頂けるお蔭で、小康状態で抑える事が長期にできています。現在は抗癌治療も徹底的に闘うよりも、適切な量で癌を抑えて共存しつつ、日常生活を楽しみながら治療する事も提唱されています。一緒に協力してそれを作り上げたいと思っております。

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