(感染症の症例:19)2つの病院を経て「難治性皮膚病?」として紹介頂きました。

ネコちゃん ソマリ 初診時 11歳6か月
■既往歴:特にありません。基本的に家からは出ません。
■2つ前の病院での診察と治療:3カ月前にステロイドに反応する痒みがあり、ステロイドで治療したが完治しませんでした。
■1つ前の病院での診察と治療:ならば、と思い切ってかなり高用量のステロイドをして痒みは減りましたが、4~5日で悪化したそうです。あまりに痒みが凄いので、食事の変更もしています。これは難治性の皮膚病かも?と紹介して下さいました。
■初診時:
まずは痒みの指標であるVAS(PVAS)を確認します。これは0~10の範囲で「どの位の痒みか?」を一緒に暮らすご家族に表で判断して貰うものです。もし皮膚科診察で毎回これを確認されて無かったら「変」だと思って下さい。さてどの位か・・・
VASは最高値の10との事でした。
「VAS10」はかなり酷いです。教科書的には「外部寄生虫・食事アレルギー」が該当する事が多いと言われます。ただ、あくまで主観的な判断ですので患者さんの性格やご家族の心配度合いで評価が変わります。治療後の今後のVASの変化の評価も大切です。さすがにステロイドには反応するそうですが高用量投与でも痒みは3割減と言う感じだそうです。
まだまだ問診を進めます。年齢・食事・家族や同居ペットの様子・外出状況・・・絶対にいきなり視診に進む事はありません。これも話も聞かないで視診に進んだら「変」だと思った方が良いです。※あくまで皮膚科の話です。救急とかは別です。
診察の流れは上海での皮膚科講演でも最初の講義で時間を掛けて強調した点です。実際に「見てすぐ疑える病気」は幾つもあるのですが、バイアス(先入観)で大きく方向を間違える可能性があるので、絶対に「聴く」➡「視る」の流れは変えない様にしています。
大切だと思うので、上記の様に最初に問診と検査の大切さに関しての講義をしたのですが、基礎的で掴みの講義としては面白く無いですね・・・。さて問診後に見た目の症状を確認します。
右耳と後頭部です。
脱毛と共に鱗屑(フケ)がありますね。とにかく全身的に脱毛が酷いです。部分的に炎症を起こして紅斑や丘疹があります。
頸部から肩です。暴れるので胴体が写せませんが、基本的に全身に症状があります。
皮膚科を少し知っている先生だと「高齢で、家から出ないで、全身性で、メチャクチャ痒いんだったら糸状菌(カビ)じゃなくて何か変な病気か・・・?」と思ってしまうのも分かる状態です。※感染の症例9でも糸状菌の子を紹介していますが若い子です。
でも思い込みは良くありません。
見た目からは色々と考えられます。更によく問診をすると実は年に一回はトリミングに行くそうです。凄くシャイな子だったので大変でしたが、きちんと検査をした方が良いです。費用が掛かるとクチコミを書かれても(苦笑)、必要な検査は必要です!
もちろん費用や方針に制限がある場合は柔軟に対応しますが・・・。
診断の流れはウッド灯(それで猫の糸状菌のほぼ100%と言われるM.canisの検出ができるライト)、鏡検、培養になります。全てが今回の症例ではありませんが、セミナーで紹介した写真を掲載して診断の流れを紹介します。
ウッド灯で独特に光る部分を確認しますが、光ったら良い訳ではありません。確認には色々なコツが有ります。それでも光った毛を抜いて顕微鏡で見て確認する事が大切です。
この様に敷石状に粒々が見えるのはM.canisだけです。たまに判断が難しい場合があるので培養をします(費用的に省く事も)。
培養の確認にもコツがあります。それでも分からない時は遺伝子の検査(PCR)もします。この様に正しい方法で複数する事で見逃しを減らします。ですが、検査はあくまで除外診断と確認である事が基本です。何だか分からないから色々と検査するのではダメです。
治療ですが、外用療法と内服があります。外用療法(シャンプー)には色々と手段がありますが、国内で猫で認可されたモノはありませんし、正しい方法でする事が大切です。洗い過ぎて皮膚が悪くなる場合もあるので要注意です。
たまに糸状菌と診断されているのに外用薬だけを塗っているという転院例がありますが、それは厳しい戦いになります(最終的に自分の免疫で治ったりもしますが、再発予防と周囲への感染拡大防止の観点からも問題です)。そもそもヒトと違い外用薬塗布は使用しづらいですし、基本要らないです。
外用療法は大切ですが、この子の様に酷い場合は内服をしなければ治り難いです。その内服方法も「連日飲む」「週2日だけ飲む」「隔週で飲む」とか量を調整したりにコツや法則があります。何よりも「完全に治ってから止める事」が非常に大切です。長期に渡り飲みますので「きちんと検査をしながら飲むのも大切」です。たまに病院から抗真菌薬を貰っているのに血液検査をしていない子もいますが、これも必要な検査になります。もちろん高齢ですので、本人の健康に問題が無いか?も確認しています。
更に内服終了の判断の際にも上述の真菌の検査(ウッド灯や培養)で適切に確認する事が大切です。
この様にウッド灯で確認すると線香花火みたいに毛先だけが光っている状況になっていくのが身体から糸状菌が消えている証拠になります(でも毛先には残っている、と言う事でもある)。培養の方法も最初とは違う特別な方法を行います。
基本的には毛が感染源ですので毛を刈るのも方法の一つですが、毛刈りは基本的に必要ありません(今まで僕は必要とした事は無いです)。する場合は感染した毛が散ったり、バリカンで皮膚を傷つけ無い様に細心の注意が必要ですので、家で気軽にするのは危険です。とにかく毛で感染が拡大したり再感染するので「環境の浄化の指導・ヒトの症状の説明」も非常に大切になります。
さて「環境やヒトに配慮」しつつ「正しく抗真菌シャンプーで保湿しつつ洗い」「内服を適切に飲んで」の治療をして(もちろんステロイドは危険かつ不要です)順調に治りました。
綺麗なソマリさんになりました!相変わらずシャイさんなので全身像が撮影できないのですが(汗)。
一番大事な事ですが、その後の再発もありません。必要な検査をさせて頂き、必要な治療をして下さったご家族に深く感謝です。どんなに治療したいと思っても、その両方が無いと僕ら獣医師は無力ですので・・・。
こじれると難治性の別の病気に思えますが、こんな時ほど基本を大切に丁寧に診察する事が大切です。知り合いの獣医師さんから「参考にしているよ」「見ているよ」と言われる事も多いので、今回は上海で皮膚科セミナーもした後なので、そのスライドを活用してみました。