(感染症の症例:10)手術後の皮膚炎が、どうしても治らなかったので紹介して下さいました。

ワンちゃん・ヨークシャとチワワさんのMIX・7歳7か月・去勢オス
■病歴:元々外耳炎等は有って、皮膚はやや弱い?半年前に去勢手術と共に肛門周囲腺腫(?)の手術をしたが、その後、入院をしている内に皮膚病になって治らない・・・。ステロイド含有の総合クリーム・低刺激シャンプー・抗菌薬・内服のステロイドと色々としたけど半年ずっと治らない・・・。

■来院時:全身に膿皮症や、それが破れてできる表皮小環がたくさんありました。かなり酷いです。痒みは中程度以上で寝るのにも影響が出てきたご様子です。問診ではできる治療は既にされている感じでした。


腹部です。毛が無い所は痛々しい位に分かりますね。


背中もこの様なフケと言うよりカサブタが沢山あります。


これだけ分泌物を伴ってアチコチ症状があるのは・・・?

とりあえずは感染だろうな、と言う事で調べた所、ブドウ球菌を好中球が貪食している典型的な「細菌感染」の様子を認めました。抜毛検査では寄生虫は見つかりませんでしたが、毛根に皮脂等がビッチリ付いた毛包円柱を沢山認めました。これは脂腺炎(免疫介在性・自己免疫性疾患の⑤)で特徴的な所見の1つなのですが、重度の感染でも認めるので、注意が必要です。鑑別は最終的に皮膚生検が必要ですが、今回は犬種や症状・経歴からはとりあえず不必要な感じです。手術が契機になって自己免疫性疾患!の可能性も有りますが、症状的には第一鑑別では無さそうです。

膿皮症で治らないとすれば「標準的なケアをしていない」「基礎疾患がある」「ケア(特に抗菌薬)が合っていない」などの理由が有ります。今回は標準的なケアはかなり長くしています。しかし後の2つは再検討しても良さそうです。

膿皮症を再発・難治にさせる基礎疾患・原因として、ざっくり言うと4割アトピー、2割食事、1割甲状腺機能低下症が存在するとの論文が有ります。しかしこの子は経歴や治療経過からは違う感じがします。半年前に外科手術を行い、そのまま20日入院した事が発症のスタートですので「何か強力な感染が起こった(院内感染)」「病気そのものの影響」「強烈なストレスによる免疫力の低下」が考えられます。ですが、もちろん甲状腺を含め、全体の血液検査もしました。特に問題無く安心しました。本当に一時的なストレスからこじらせた状態なのか?逆に鑑別にはしっかりと皮膚の治療を行う必要があります。ちなみに腫瘍は良性だとの結果でした。

まずはブドウ球菌と感染性の反応を確認できたので、細菌培養と感受性検査を適切な方法で適切な施設でしっかりと行います。せっかく原因を見つけても、採材や培養や薬の選択で問題が有ると適切な治療ができない事も有ります。

今回は培養で幸いにも耐性菌では無いブドウ球菌が検出されました。耐性菌の院内感染ではなさそうです。抗菌薬としては「オキサシリン・アモキシシリンクラバモックス・ケフレックス・セフポドキシム・セフォベシン・ファロペネム・ホスホマイシン・リファンピシン」等が有効との事です。普通なら今の治療で治るはずですが・・・ひとまず阻止円(薬の有効度を見る検査)で薬を再選択して投与しました。

そして今や何より大事なのは外用療法です!
近年は耐性菌の問題も有り、内服を飲まず治療する事も多く選択されます。もちろん本人の性格やオーナーさんの環境が許すか、と言う問題も大きいので色んな選択肢を御用意する事が大切です。今回はしっかりとして頂けるので、複数の外用療法を併用しました。



痒みは半減し、活動している病変は凄く減りました! 特に強い痒み止めは使っていません。かなり慢性経過なので色素沈着等が強いですが、順調に治ってくれています。感染を制御しても、適切なスキンケアで菌を抑制する事をしっかりと続け(週1日)、毎日保湿を強化します。更には内服でも皮膚に良いサプリを飲んで中からもしっかりと皮膚を丈夫にします!



すっかり治りました!
今回は突発的なイベントが原因と思われ、恐らくはこのまま治ると思われます。ですが、念の為に薬浴は回数を漸減してフェードアウトするのが安心だと思います。切除した腫瘍も悪性では無く、きれいに取れて再発も無いご様子ですので、恐らくは問題は無いでしょう。
今回がここまで難治だった原因が術後のストレスなら、時期的な事がありますので当院で急速に治ったのは手術が終わってからの時間の経過のお蔭も有ると思います。ご紹介頂いた先生と、色んなご提案を真摯に受けて頂いたご家族の皆様に感謝です!