(感染症の症例:11)恐らく接触性皮膚炎だったのですが・・・途中ちょっと心配になった子
ワンちゃん・柴犬・診察時10歳9か月・去勢オス
■病歴:若い時から皮膚は弱く、恐らく柴犬に多いアトピー(+食物関連性皮膚症)で通院してくれている子です。2年前には突然肝臓が悪くなった事も有りますし、前立腺のトラブルで投薬や去勢もしましたが、しっかりスキンケアもして下さっており、最近は間欠的・部分的に皮膚がたまに悪化する程度です。
■来院時:8か月前に去勢手術したタマの部分が腫れている?との事で来院されました。単純な術後のトラブルにして間が空きすぎています。どうなっているのかな・・・? 確かに陰嚢表面が赤く少し腫れているかな?ですが、ほんの少しでした。手術は睾丸をペニスの根元に移動してから切るので、陰嚢は手術部位とも異なります。
切るのは棒の所の根元です。 当然袋の中にはタマも有りません。
手術の消毒薬でかぶれたなら発症は遅すぎます。術後なので縫合糸関連性の炎症も心配ですが、その場合は深部からロウ管を通って腫れて分泌しますから皮下組織も炎症で腫れていたりします。今回はごく表面のみです。この様に「いつどこで問題が起きているか?」考えるのは大切です。同時に他の部分の問題もチェックしますが、他に悪化している皮膚の部分はありません。 陰嚢の表面が炎症(びらん)を起こす場合に一番多いのは接触性の皮膚炎です。原因としては散歩中の草などの刺激、床材やワックスの刺激、敷物の刺激、シャンプーetc色々と関係するので、発症歴と合わせて色々と検討するしかありません。
今回は思い当たる事は無いし、突発的なので「散歩中に何か接触?」との判断で、外用薬と抗菌薬の内服をしました。原因が除去されていれば簡単に治るはずですが・・・。
あれれ?治りません。 そしてすごく痛そうだとの事です。腫れも強くなりやや立体的に盛り上がってきました。まさか腫瘍じゃな いよな・・・不安になるのでダーマカメラで撮影し、細胞診断で分泌物と表面の細胞を確認します。
しかし腫瘍を疑わせる像は共に無く、感染が慢性的に酷くなっている所見だけでした。
ですので細菌培養検査を優先し、しっかりさせて頂きました。同時に刺激の防御を強化しました。オムツやカラーや患部へのワセリンやら・・・。もちろん原因と思う事は全部除去と変更です。 本人が気にする度合いが酷いので痛み止めも投与します。
皮膚病でも鎮痛は大事です!
ご家族様は非常に熱心にして頂ける方なので、一緒にメールで連絡を取り合って治します。
これはオムツに付く分泌量の報告と相談です。こんな感じでご報告と相談を頂いたので、非常に助かりまし た!将来的にはオンライン診療や相談もしたいのですが、ご家族が熱心ならできると思います。 培養の結果はよくいる皮膚の常在ブドウ球菌でしたが通常の薬が効かない耐性菌でした! やっぱり培養を適切にするのは大切です!外用薬と内服を結果に合わせて変更すると・・・?
分泌量も急減して、炎症も消えてきてキレイな袋に! こうなると心配として少し残っていた腫瘍も大丈夫そうですね。でも内服は3週間は飲みます!
ただ感染が二次的に酷くさせたとは思いますが、根本的には睾丸への刺激が無くならないと治りませんし、再発します。これらに対してのケアとアドバイスを同時並行でする事が接触性皮膚炎を疑う場合は大切です。
最終的に元通りの美しい(?)普通の袋に! この袋での安心ポイントは何だと思いますか?「色が普通に戻った事」です。実は色素が抜けている場合に はメラニン色素の真皮への脱落が腫瘍や特殊な炎症で起こっている事があるのです。でももう安心! 今回はシャイな子でしたが、それだけにご家族がメールで報告してくれた事も治療がブレない助けになり ました。ありがとうございます。