(感染症の症例:18)手先足先の細菌性肢端皮膚炎は難治性になりがちです。

ワンちゃん ペキニーズ 初診時 9歳10か月

■病歴:
犬種の特性もあり、5年前に脊椎ヘルニアで手術をしています。その手術後(4歳過ぎ)から身体全体に痒みが発生して長く悩んでおられますが、ここ数カ月は特に悪化しているそうです。

■初診時:

酷くなったらステロイドをしながら悪化したり良化したり、今は身体全体に膿皮症が多発していますが、特に両手の先が酷い症状です。ちなみに典型的な普通の膿皮症は他にも沢山ご紹介しているので、他の報告をご参考下さい(ニキビみたいな赤い丘疹【プツッとした点】が破れて表皮小環【リング状の赤いフケを伴う症状】が出たりします)。この子が酷いのは両手先の症状です。

まずは右手です。

他の部分は症状は点々としていたり、部分的な斑状だったりするのですが、手先は特に酷い状態です。脱毛して真っ赤になり、一部は色素沈着して黒くなり、皮膚は分厚く肥厚し、フケが多く出ています。これらは基本的に何らかの「身体から排除すべきモノ」を炎症や脱毛やフケで身体から引きはがし、皮膚を色素沈着や肥厚で防御を固めている正常反応とも言えます。ただしその過程で見た目は変化して「痒み」等の症状に悩まされる事になります。

右手の部位や症状は典型的な細菌性肢端皮膚炎と思わせる症状です。もちろん細菌が関与しているか?は細胞診をして「真菌症」「寄生虫」等を最低限除外して決定する必要があります。速やかにそれらを行い原因を考えます。典型的な症状と思えても思い込みで治療をスタートすると難航する事もあるので、基本的に検査は必須です。

さて左手はどうでしょうか・・・?



こちらは更に酷い症状です。もはや肢端を超えて体幹(身体の中心)の方に広がってきています。ですが基本的には左右の症状は同じですので、同じ検査をして同じ治療をしていく事になります。もちろん左右で原因が違う事はありますので、場合によっては左右で検査を2回する事もあります。特に耳の疾患や腫瘍性疾患では「左右同じだろう」「全部同じだろう」は危険な考えです。

細胞診断ではブドウ球菌感染で矛盾は無さそうです。普通はこんなに悪くはなりませんが・・・。

この子の場合は大きな手術をした後に悪化しているので、その時に感染した可能性はゼロではありません。症状の発症としてはアトピーだとやや遅めで3歳を超えています。ただしアトピーの子でも2割位は3歳を超えて発症しますし、何より初期は症状が軽くて把握していない可能性があります。そして手術と言う大きなストレスが引き金(トリガー)になった可能性は十分にあるでしょう。

アトピーを配慮すべきかな?と言うのは細胞診断でブドウ球菌の感染の証拠と共に犬なのに「好酸球が多数出現」していたからです。これを「感染治療だけでは難しいだろう」との判断の根拠としました。もちろん難治性は皮膚生検が必要になります。

さて、治療としては先々はアトピーの治療もしたいのですが、まずは感染のコントロールをある程度しっかりする事が大切です。特にこの子の場合は手先が酷いので外用療法を頑張って貰いました。他の病気の子でも紹介していますが「感染を排除するケア」「炎症を抑えるケア」「皮膚を守るケア(スキンケア)」を「全体」と「部分」に分けて細やかに行う事が大切です。また治療や「短期」と「長期」に分けて考えないといけません。

更に犬種による体型も治療方針に大切です。この子の悪化はペキニーズの犬種特性(皮膚の皺やたるみ)も関与していそうです。

まずは「感染を優先して治療(短期)」「炎症は部分的には強力に抑える(短期)」「スキンケアをする(長期)」をしてから「再発したり、痒みが止まらねばアトピーの治療をする(長期)」のを計画しました。食事に関しては「色々と食べず内容と反応を把握して食べる」だけにしました。ですが同時に甲状腺の機能低下症や全身性疾患も有無を確かめます。中高齢だとこれは大切です。こちらは幸いにも問題ありませんでした。

さて思った通り、感染のコントロールや局所ケアだけでは良くはなるものの完全に治りきりません。

アトピーの治療は他の子の報告を参考にして欲しいですが、現在色んな方法があります。なるべく薬を使いたくないな~と僕も思うのですが、難治性の子では基本的に非常に困難です。逆に「適切な薬を上手に使って、病気と付き合う」方が色んなご飯やサプリメントに迷走しないで良い生活を作れると実感しています。世の中には苦しみを利用する商売も多いので・・・。もちろん凄く良い情報があるかどうか?は常に学会や論文や人脈を通して絶やさずに集めております!

では何がベストの薬か?これは「その子」と「その子の家庭」による、としか言えません。「効果・値段・副作用・コンプライアンス(投薬や来院ができるか)」色々な要素があります。また薬が決まっても量もそれぞれのベストがあります。それらを相談して決めれるか?が皮膚科認定医の仕事だと思って治療をしています。

この子は副作用の観点からサイトポイントと言うアトピー治療の注射をしましたが、どうも合いませんでした。最小限度のアポキルでも維持は難しい様子です。その一般的な最小量からちょっとだけ増やした投与量、これが前述のスキンケアと共にハマりました。

さて身体は当然良くなっているとして、かなり酷かった右手は?

すっかりキレイです!でももっと酷かった左手は・・・?

元々のペキニーズらしい美しい被毛ですね!もう初期に比べたらスキンケアはかなり減らしていますが、今後さらにスキンケアの手間を減らして維持できるか?が大切です。飲み薬も低用量アポキルから週2回程度の少量のステロイドで更に手間と費用を減らして維持するのも良いでしょう。何度も繰り返しますが、色んなデータはあるのですが、本当に何が「その子とその子のご家庭でベストか?」の答えは一緒に治療しながら考えて「創る」しかありません。それが難しくもあり遣り甲斐でもあります。

一緒に考えて真摯に治療して下さるご家族の皆さんと、治療に頑張ってくれる病気の子に感謝です。