(その他の症例:23)アロペジアX(毛周期停止)とは|症状・診断・治療のすべて

※今回の話はこの子の事だけでなく、アロペシアX(毛周期停止)と言う病気の事を詳しく全部盛りで書きました!ボリュームがありますが、これだけ読めば現時点の全てが分かります。セミナーレベルだと思います。
獣医療は進歩していますので、この話が陳腐化してくれる事を願っています。今の最新情報は経験が豊富な皮膚科の認定医・専門医に受診して確かめましょう!そもそもがアロペジアXじゃなかったり、治療で命の危険に晒していたり、無駄なお金を費やしているかも知れません・・・。
■ワンちゃん:ポメラニアン
初診時2歳2か月 去勢雄 ※若いポメラニアンさんでタヌキ顔の可愛い子で・・・この病気の特徴です。※プードルさんは違います!
■病歴:指間炎や膿皮症はたまにあったそうです。
痒みが無いのですが、体幹中心に脱毛してきています。いわゆる膿皮症も軽度ですが、あります。※体幹だけ脱毛、特徴です。
右サイドです。
※独特のキシキシとした感触の被毛です。この病気の特徴です。初期には毛の艶の消失から一次毛が消失し、段々と羊(幼)毛化し二次毛が減少する事によります。
アップにしたら鱗屑や膿皮症があります。
※毛と言うバリアが消失する事により刺激を受けやすく乾燥しますので、たまに膿皮症を起こすのも特徴です。スキンケアが大切です。
お尻周り、太ももの裏側ってのも多いですね。キャッチアップ画像は分かりやすい子を載せています。
はい、じゃあアロペジアXですね!このトリロスタンを沢山飲んで、オサテノロンもします?ついでにサプリもいきましょう・・・とはなりません。まずは全ての病気に共通の鑑別疾患をきちんとします。本当は非常に特徴的なのでイッキにいきたいですけどね。
最初に痒みがあるのか?が大切です。アトピーとかと鑑別しますが、二次的な膿皮症や乾燥で痒い時もあるので要注意です。
さて脱毛症の鑑別は例えばこんな感じです。問診の他は毛を抜いて毛根をみたり基本的な検査をします。
- 各種感染症(毛包虫・潜在性皮膚糸状菌症)
- 甲状腺機能低下症
- 副腎皮質機能亢進症
- 性ホルモン性脱毛
- デルマドローム
- 休止期脱毛
- 毛包形成異常
- 再発性ケン部脱毛症
- 淡色被毛脱毛症
- 黒色被毛形成異常
ただまぁ、実際には二次的な感染をケアしつつ、不妊手術を終えていれば甲状腺・副腎の鑑別をしっかりする事で殆ど確定できます。
ところがこの鑑定方法は進化しています!そして割とすぐに話が変わります。昔はACTH検査とかを良くしたのですが・・・今は全然しません。
病理検査は意味が無いとは言いませんが、確定も取れないですし費用と本人の負担を考えるとあまりしません。した後に生検部から発毛するのが特徴ですが、ちなみに病理組織学的検査では毛包萎縮・火炎状毛包の確認ができますし、他の病気か?の除外もできます。
そうやって慎重に確定診断を得てアロペジアXとして治療する事、このスタートが結構されていません!
ちなみにアロペジアXは「なんだか分からない(X)脱毛症」の名の通りで原因不明です。偉い人たちは色々と推察しています。
*全身性の性ホルモンの不均衡による毛周期異常?
*17-ヒドロキシプロゲステロン過剰産生?
*毛包レベルでのホルモンやサイトカインレセプターの問題?
*下垂体依存性副腎皮質機能亢進症の亜型?
*毛周期の原発性異常?
*酵素欠損によるプロゲスチンとアンドロゲンの過剰な発現?
ですが、今から述べる治療方法にも関係しますが何らかのホルモンもしくは感受性の異常がありそうに思われています。大事なのは甲状腺や副腎の病気と違って「基本的には脱毛だけの病気」だと言う事です。なので「どの程度の治療をするのか?」は自由度が非常に高いです。
さて大事な治療です。後で詳しく述べますが、この子は膿皮症と乾燥のケアをした後に「リスクのある生える可能性が高い事をするか(基本発毛させる派)?」「リスクが低いが安全性が高い事をするか(基本これ以上の脱毛をさせない派)?」をしっかり相談した上で後者で頑張りました。すなわちメラトニン投与です。
この時には期限(目安)をお伝えするのも大切です。確率的に3か月で、6か月で、1年で・・・をお伝えします。さて4か月後。
左側です。
右側です。
お尻です。
当院では欧米風に「あんまり積極的に発毛に拘らない」事も多いのですが、やっぱり脱毛が進行しない位だと寂しいですね・・・僕も頭にリアップをする年頃になって分かります。それに毛が生えていると皮膚は守られてより健やかになります。今までは後から述べる副腎ホルモンを抑制するトリロスタンの使用方法は「生きるか死ぬか」位の量をぶち込んで「生えた!」とかの論文がメインだったのですが、どうやら「かなり低用量で大丈夫だ」と分かってから一緒にトリロスタンを慎重に使用して頂けるご家族には頑張って発毛治療に使う事が増えています。
ですが、トリロスタン使用は間で検査も必要ですし、腎臓病で使ってはダメですし、ある種の薬とは併用禁忌ですし、とにかく色々な注意があります。絶対に適切な(ここ大切!)検査をしないで適当な感覚や本に載っている量(これ適当です)でしてはダメです!ましてや酢酸オサテロンと一緒にやってみたりは危険です。この辺はちゃんと相談できる皮膚科の認定医・専門医と一緒に治療して上げて下さい。実際に死ぬ一歩手前で来院した子もいました。まぁ生やす努力を命がけでしているとは言えますが、さすがに発毛させる為に死んだら可哀そうです。
さて相談してホルモン療法を開始です。同じポメラニアンさんでも体重は2~3倍の幅が普通にあるのに信じられない事に本や論文では「ザックリ」の量の記載が多いです。これは鵜吞みにしてはダメです。オーダーメイドで慎重に薬用量を決めます。この辺を根気よく丁寧に一緒に頑張れるご家族としか僕は怖くて治療できません。
慎重に投与しつつ8か月・・・生えてくるのを見守ると嬉しいですね。
左側です。
右側です。
お尻です。
良い感じですね。今は用量も決まったので検査は最低限で低用量トリロスタンを続けています。もちろんスキンケアも!ご家族の方に感謝です。
さて最後にアロペジアXの治療方法をまとめて書きます。
大前提で不妊手術をしてなかったら、します。これで殆ど生えますが、1~2年でまた脱毛します。
その次に生えるのがトリロスタンです。過去の報告にある高用量は100%近く発毛するのらしいですが止めましょう。命が大切です。低用量でも十分に生えるのは期待できますが、しっかり適切な検査をしましょう。ACTH検査とか要らないですよ。
それ以外で比較的安全なのはメラトニンです。人間の時差ボケや免疫力向上のサプリとして海外ではスーパーで売られている位に安全です(トリロスタン絶対に売らないです)。ポメラニアンの60%で4か月内に発毛すると言う話がありますが、実際は40%の話や20%の話すらあり、発毛に要する期間も12か月の話もあります。僕の印象としても「生えたらいいな、脱毛防止にはたぶんなるよ」と言う感じです。でも消化器症状やまれに糖尿病は注意とは言われますが、非常に安全で他の作用も期待でき、安く(当院では)、僕は割と使っています。
確実に生えると言えばダーマローラーが有ります。麻酔を掛けて針ローラーで全身血まみれにします。一説では100%生えます!ただ一生生えたら良いのですが、1サイクルで脱毛します・・・僕は可哀そうすぎてしません。
酢酸オサテノロン、50%程度の発毛率のわりに肝障害とかも多く、それ飲み続けるんですか?ってホルモンですね・・・。
ミノキシジルやビマプロストは6割近くで生えるそうですが、全身に使えば低血圧など色んな副作用があります、部分には良いかもです。
さてアトピー界隈・腫瘍界隈みたいにアロペジアX界隈もやたらサプリがあります。
- ツバメの巣
- ビタミンE
- アンチノール
- イチョウの葉エキス
- 樹皮エキス
- トリカS
- L-システイン
- R&U
- 漢方色々
- アルギチャンプ
- エネアラ
- 皮膚食(ダームディフェンス・オールスキンバリアとか)・総合皮膚サプリ(ダーマクトとか)
- キノコ色々
- サプリじゃないですが、レーザー・酸素カプセル・オゾン・なんか塗るやつ色々(保湿はしましょう!)
どれもこれも「補助的に使うもの」です。「良い話が有っても、それなりに効く(20~30%)か補助しているかも知れない程度」です。もしこういうサプリで「必ず効きます!メチャ効きます!論文あります!」みたいなのが有ったら論文から精査してみましょう。論文の掲載誌が月刊ムー(僕好きでよく買っていました。オカルト大好きなら楽しい雑誌です)レベルだったり、論文自体がn数(症例数)が乏しかったり内容が統計的な処理の無い体験談レベルだったりします。自信満々が一番ヤバイと言うか不誠実だと思います。効くなら検証の場に持ってきたら良いのに闇で高く売るだけで絶対に出してきません・・・。心配しなくても真面目な皮膚科医集団が効果が有って安全な療法を見逃す訳が無いです。
皮膚病に限らず腫瘍などでも僕が患者さんにお伝えしている「サプリ選びポイント」があります。ヒトも同じだと思っています。
①やたら高くない(何事も商売なので自由なのですが、不安商売には不当に高いのも多いです)
②危険じゃない(サプリや漢方や自然療法なら安全では無いです)
③何らかの総合的な有効性はある(例えば僕は補助としてはサプリの王者必須脂肪酸のアンチノールや皮膚療法食をお勧めします)
王道の治療を的確にした上で余裕が有れば①~③に基づいて何らかのサプリをするのは良いと思います!
後は治療のゴールを「二次感染防止」「現状維持」「もっと生やす」「元に戻す(時に難しい)」等のどこにするかもよく相談しましょう。
一気に沢山書きました。もし近くで脱毛症に悩んでいる方がいたら是非共有して下さいね。でも皮膚科に限らず悩んだら皮膚科認定医・専門医の診察を受けましょう~!