(感染症の症例:20)今までで一番危なかった蜂窩織炎

ワンちゃん シーズー 初診時 9歳10か月

■既往歴:1年前から皮膚病で治療を受けています。ステロイド・抗菌薬・抗真菌薬などを色々としても効果が無く痒みも10段階で10だそうです(PVAS10)。もちろんアポキルもしてきたし、最近はサイトポイント(アトピーの注射治療薬)も打って貰ったそうです。抗菌薬は色々と試したし、甲状腺疾患も調べてくれてはいます。

前回も書きましたが「VAS10」はかなり酷いです。教科書的には「外部寄生虫・食事アレルギー」が該当する事が多いと言われます。ステロイドをして10なら普通じゃないと思わないとダメです。ただ、あくまで主観的な判断ですので患者さんの性格やご家族の心配度合いで評価が変わります。

経過も長く状態も悪そうなので3日前の他院のデータを含めて今までの結果をご持参頂きました。当院での皮膚科受診時は先に頂ける時は先に頂いて分析して考えております。当院の皮膚科診察は診察前から始まっています。

 

■初診時:

元気食欲はあるそうですが、お持ちになられた3日前の血液検査の結果が危険そうでした。

HCT(貧血を調べる、正常は37~55%)が30.6%で貧血、そしてALB(アルブミン:蛋白の主要なひとつ)が2.5で低アルブミン・・・来院時に調べ直すとHCTは26.6%と更に進行していました。

そして本人に元気食欲があるのが信じられない位に皮膚症状も悪い状態でした。

頸部

胸部

左手

 

 

右手

全身でカサブタがあり下から膿性の分泌物がドロドロ出てきています。分泌物は深い所から出てきて穴が沢山あります。

これは蜂窩織炎です。よくある膿皮症の表面性や表在性とはレベルが違う重症度です。

元の病気がアトピーか?食事アレルギーか?或いは皮膚リンパ腫や自己免疫性疾患か??

どうでも良いです!これらは感染症を制御してから考える事ですし、治療する事です。

感染症は細胞診をしたら「色んな菌(通常いる球菌だけでなく桿菌も)」がいます。培養は東京のしかるべき機関にお願いするので高いので相談してしない事も多いのですが、今回は相当にイヤな予感なので早速培養に回します。

でも菌だけでしょうか?

予防歴の十分でないステロイド連用の子・・・ここは慎重に慎重に考える必要があります。

注:別の子の毛包虫の写真です

やっぱり毛包虫(ニキビダニ)!。これを見逃しては幾ら他の事を頑張っても治りません。

昔は困りましたが、今はイソオキサゾリン系の駆虫薬で余裕で治ります。全ての皮膚疾患の子は予防的に投与し、試験的に投与すべきだと思います(発作の持病があるなどの場合は主治医とご相談下さい)。

膿の細菌培養が分かるまでゆっくりと治せば良いかな?と思っていたら2日後!

なんとHCTが20.4%になりました・・・ALBも2.1、これは死んでしまいます!さすがにグッタリしてきました。元々の病院が大きかったので、輸血の段取りをお願いしました。もうそこは責任を持ってして輸血をして貰いたい!って気分でした(もちろん言えませんが)。ただ赤血球の再生はかなりしていて、恐らくは炎症性の貧血なので感染をコントロールしたら回復すると思っていました。ギリギリですが・・・。

ヒヤヒヤしながら細菌培養の結果を待っていました。それまでは経験的に有効と思われる薬をステロイドを漸減しながら投薬しています。祈る様に最近結果を見たら

一般的なブドウ球菌2種(ひとつは多剤耐性菌)そしてプロテウス、ここまでは予想の範囲でしたが、更に・・・

緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)が!!

緑膿菌がどれだけ危ないかは是非ともAIに聞いて下さい。この子の治療もですが、ご家族の事も考えないとダメですし、病院のスタッフも気をつけねばなりません。以前に近医から「リーシュマニア」がスルーされて回ってきましたが、時には病院スタッフも感染する事がある人畜共通感染症もあるので常日頃から要注意です。

恐ろしい結果が出ましたが、逆に敵は判明しましたので後は粛々と治療するのみです!物凄い熱心なご家族なので複数の抗菌薬投与のみならず外用療法も通院も全部お願いした事を頑張ってくれました!

皮膚も段々とカサブタや分泌や臭いが減りますが何しろ酷かったので心がすり減る状況でしたが、元気食欲が復活してきて貧血は1週でHCT25%、2週でHCT33.1%と回復してきました。痒み(痛み)は1週でほぼ消失していましたが、恐らくは1週位は死にかけていて皮膚を掻く余裕が無かったのでしょう(涙)。でもその後痒みは元気になっても消失しました。痒いと言うよりも痛かったのかも知れないですね。

順調な回復に、これは助かるだろう!と2週間で確信しました。後は油断せずに頑張るのみです。

2週後(頸部)(右手)

3週後(胸部)(右手)

1か月後(胸部)

2か月後(頸部)(胸部)

3か月後(頸部)(胸部)

蜂窩織炎はしっかり完治させねば再発が多いので、治ってそうでも頑張って頂く事が継続して多かったのですが(蜂窩織炎を普通の膿皮症の様に早くに治療終了してはダメです)、ご家族は万全にして下さいました。

ギリギリの所で生存できた今回の子ですが、皮膚科を良く知らない方からすると普通に感染治療したからでしょ?とも思われそうなのでポイントをまとめておきます。※そもそも来院前には一般的な診療を受けていましたが転院時は既に非常に危険な状態でした。

①治らない&悪化は、まず感染を除外する。最初に除外していても悪化と難治で必ず再評価する。

②感染が1種と思わない。治療方法によっては感染は予防しておく。人畜感染症に注意する。

③細菌感染は適切な培養結果に基づき解釈し、時に外用だけでなく内服も積極的に使って、適切な期間続けて治す。

④アトピーの治療は感染の治療と合わせ段階的にする。(必要な薬用量や種類が違う!)

⑤全身状態の定期的な評価をする(ステロイドだけでなくアポキル・ゼンレリア等でも)

お陰で2か月目からは普通にアトピーの治療に入れました。やっとアポキルやサイトポイントの世界です。最後に残りがちな指間炎も有ったりしますが、痒みもほぼ無く皮膚病で死んでしまう事は当面心配無さそうです(*^-^*)

 
ゆう動物病院|京都市の皮膚科認定医 アトピー・難治の皮膚病対応 TEL.075-681-5300
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