(感染症の症例:9)猫アレルギー様皮膚炎を疑って紹介されたのですが、酷い感染症でした。

ネコさん、1歳10か月、去勢オス
■病歴:2か月齢で他院にて真菌症として治療。改善を認めたため3か月で治療を終了した。治療終了後3か月後に皮膚症状が出現、頸部中心に掻きむしり、食事療法(低分子食)を開始した。2か月後に悪化しステロイド・抗菌薬投与、少し改善するが1か月後に悪化・・・。痒みはあまり無いが食欲が低下してきた。各種血液検査等は著変無し。この子は病院からの紹介状付でした。ちゃんと紹介できる病院は真っ当な病院だと思います。僕も眼や神経や整形等は状態を診て早めに紹介する様にしています。

■来院時:悲惨な事になっています・・・。痒みがあまり無いとは思えない皮膚ですがステロイドのお蔭でしょうか?食欲は皮膚の事だけでも低下しそうです。

後頭部

 


背中

さぁ皮膚を診なくちゃ! ・・・と、思っても必ず先にゆっくりとデータを確認して、問診します。

まだまだ若い猫さん、以前に真菌が出ている、食事療法やステロイドに反応しない、痒みは皮膚症状には比例しない 軽さ・・・改めて皮膚を診ると、脱毛・分厚い痂疲が全体に有ります。

これってムチャクチャにこじらせた真菌症じゃないかな?
珍しい病気を考える前に直感的に思いました。もちろん最初に3か月も治療し、一度改善しています。 ご家族の方も最初は皮膚症状が有ったけど、今はこの子と暮らしても何も問題無いそうです。 真菌にしては珍しく痒かったし、それに対して最初はステロイドに反応して改善しているし、真菌では無い?

やっぱり真菌症では無いのかな・・・と思いたい所ですが、こうも考えられます。
*本当に完治したのか?
*人間は入浴するので持続感染は難しく(真菌に触れても1日以内に除去すれば大丈夫)、不顕性も有る。
*酷いと真菌でも痒いし、ステロイドは何でも一時的に良くしてしまう。アレルギーとの併発もあり得る。


ですので、アレルギー様疾患として紹介されましたが、再検査です。基本的な皮膚の検査を行いました。
・・・真菌がいる・・・。鏡検・ウッド灯(真菌の一部が光るライト)・培養・遺伝子検査と色々と方法は有るのです が、僕は主には鏡検で独特の像が見えるのを診断の第一の根拠にしていました。
ですが今回はちょっと違う方向からすぐに分かりました。 令和元年現在、最新鋭のダーモカメラです(獣医では一番に購入しました)!メチャ高いです(苦笑)。



接写の能力が桁違いで、更に特殊なライトで鑑別に役立ちます。 接写してみると・・・左が普通の毛です。皮膚はフケだらけで普通ではありません。でも右側・・・。



論文では見た事がありましたが、本当に太くカンマ型の毛が確認できました(左側の細い正常の毛と比べてみて下さ い)。これは真菌に犯されて膨らんで折れた毛がこう見えるそうです。もちろん培養等もしますが、写真一発で診断が できる所見です。感動しました。

もちろん感染症の症例①の様に「真菌感染のあるアレルギー様(アトピー様)皮膚疾患」の可能性もあるのですが、 まずは感染症の治療に全力投球です!もちろんステロイドは中止です。 大事なのは内服に頼らずに外用療法もする事です。この子も大人しく、ご家族も積極的でバッチリして頂けました。



脱毛はありますが、2週で改善がハッキリしています。少し痒い位です。 そして1か月、肝臓の検査をしっかりしながら内服・外用共にしっかりして頂きました。



毛は生えそろってないですが、かなり治ったと思える状態です。ところがここが一番大事です! 前回もしっかり治療して下さったと思いますが、治りきって無かったので、今回は更に要注意です。

よくよく見ると赤矢印に怪しげな赤い発疹と痂疲が有るんです。 真菌症は教科書的には培養2回の陰性を持って終了するとも書いていますが、そこまでしない事も多いです。 ですが、この子の場合には特に注意が必要です。赤い矢印の部分をピンポイントで培養してみますと・・・




黄色かった培地が赤変し、白いフワフワしたカビが生えました!! やっぱり慎重にして良かったです。こういう時にしっかり検査させて頂き、継続治療して頂ける事がありがたいです。 まだまだ強力に抗真菌療法を続けます!更に1カ月!!



背~腰

こんなに美しいネコさんだったんですね! もうツヤツヤ滑らかな毛で、ブツブツもフケもカサブタも有りません。 それでも真菌培養をして完全に生えない事を確認し、さらにゆっくりゆっくりと内服と外用を減らしていきます。 更にアレルギーが否定された訳では無いので、要らないかも知れないですが食事療法もゆっくり離脱してみます。 逆に「これは真菌症だから、食事療法は要らない!」と判断するのも危険な事で、要注意です(症例①)。

最初の病院様は真菌症の診断と治療をしており、決してスタートは間違ってはいませんでしたし、当院でも色んな理由で必ずしも教科書的に真菌培養陰性が連続2回達成になった時に治療を終了できている訳ではありません。 ですが紹介状を読みかえすと「培養が陽性なのに症状が無いから止めた」「皮膚はゴワついていたけど症状は無いし止めた」「再発の可能性が高いのに食事療法やステロイドを強力に進めた」などで悪化した可能性があります。 ただ、これは酷くなった状態で診せて貰ったから言える事でも有り、どこでも起こり得る事と思います。

「こんなに良くなっているのに、まだ検査?」となっても不思議では無い流れですが、信じて頂き良かったです。 この様に、ご家族と一緒に連携しながら治療させて頂くとベストな治療が目指せると常に思っています。