(アレルギーの症例:30)猫の痒みに多いFASSってご存じですか?

ネコちゃん アビシニアン 避妊雌 初診時:8歳1カ月
病 歴:1歳位から春に悪化傾向の皮膚病で悩んでいます。2歳には耳血腫になりました。痒みに対しては近医でステロイドを貰って飲むととりあえずは収まるそうですが、ついに薬の内服を拒否する様になってしまいました。
痒みの指標PVASは10段階で9~10と相当に高いです。また今までは春から夏に悪化していたのに一年中に悪化してきています。セキをし始めたかも?との話もあります。
猫さんの場合もアトピーが季節性から通年性になったり、人間みたいにアトピーマーチとして皮膚から呼吸器にいくのか?は議論があるところですが、経験上もそのような事は多いです。そもそも猫さんの場合は本当にアトピー様の皮膚炎であるのか?も慎重な診断が必要です。(当院の感染症の症例の報告に他院で真菌感染をアレルギーとして治療して悪化した子の話が載っています)
さて皮膚はどうなっているのでしょうか?

ヒトで言うオデコの部分が荒れています。見えづらいですが粒々があり粟粒の様に見えるので「粟粒性皮膚炎」と言います。


首にも左右が赤くなりカサブタもありますね。頭部の症状と合わせると「頭頚部掻把痕」とも呼ばれます。後で紹介する典型例です。
統計的には食事の問題があると頭頚部に問題が出る確率は増えますが、だからと言って頭頚部に症状が有ったら食事アレルギー・・・にはなりません。この辺が猫の皮膚病の診断の難しい側面になります。他の場所はどうでしょう?

下腹部は「外傷性脱毛」として舐めて脱毛しているだけの事もあります。
ですが、猫のザラザラの舌で舐めると肥満細胞や好酸球の増えやすい皮膚では「好酸球性肉芽腫群」として一見すると腫瘍!?と思ってしまう様な酷い盛り上がって赤い部分が出現する事があります。これは色んな場所でビックリする様な病変を作る事があるのですが、口唇は「無痛性潰瘍」として有名ですが、実は舌や口腔内に腫瘍みたいな病変を作ってヘタすると出血等の問題を起こす事すらあります。
この子には全部は揃っていませんでしたが、粟粒性皮膚炎・外傷性脱毛・頭頚部掻把痕・好酸球性肉芽腫群は猫の4大皮膚症状で確認は大切です。でも実は「あるから・・・何?」って感じで原因を特定する事はできません。
犬と同じなのですが感染症からの除外診断が必要になります。ただ、報告されている確率的な事や年齢や環境によって一気に原因が絞れる事があります。「外出するのか?元々保護猫?⇒ノミとか糸状菌に注意だな・・・」と言った単純な事から「外出して耳中心の症状を春から繰り返して冬は改善する⇒蚊刺咬症か?」と推察するもの等、色々な可能性を考えて鑑別を頭に置いてから丁寧に除外を進める必要があります。
この子の場合も幾つかの必要な検査をした上で、猫の皮膚では犬の様に球菌感染はあまり問題にならないのですが、今回は明らかに感染している兆候を認めたので「猫の膿皮症の60%はFASS・FFA・FADが原因」との論文に基づいて問題視しました。抗菌薬投与!・・・そういやこの子は内服ができなかった!等を考慮して治療計画を立てます。理想論だけでは治療はできません。
① ノミダニ予防を家の子と一緒に有効性の高い薬でしっかりと継続して行う(今時フロントラインとかではダメです)。
② 内服できないので抗菌薬は2週有効の注射にする。
③ 内服できないのでステロイドは持続性のものにする(ただし中高齢なので先に基礎疾患の検査!・・・糖尿病や心臓病で死ぬ子もいます)
④ 他にも色々とアドバイス・・・食事はひとまず材料の制限からスタートできたらしましょう!等、できる事を一緒に考えます。
さて2週間経ちました。どうなっているでしょうか?

首のところを正面から・・・ちょっと左側は正面からは分かりづらいので、少しアングルを変えます。

まだ症状がありますね。一番目立つ悪化場所の下腹部はどうでしょう?

見辛いのでアップしますね。

良い感じに収まってきている様に思えます。ただし油断はできません!
本人もかなり気にしなくなり(痒みの指標PVAS9~10⇒3)良い感じですが、多飲多尿の症状が気になります。ここはステロイドの方は追加の注射をしないで外用療法と数日に一回の内服にしました(これだったら可能かな?と思ったら大丈夫でした!)。でも患部は抗菌薬は追加投与です。猫の皮膚病には球菌感染は少ないとは言いますが、実は抗菌薬に反応する子は一定数います。
さらに2週間経ってみました。最初に打った持続性のステロイドの効果はそろそろ終了してきます。

まだまだ・・・と思えますか?実はこれはもうすぐ治ります。ですのでステロイド内服も少量で間を空けていきます。そして再診は思い切って1か月後としました!猫さんは来院もストレスですからね。さてどうなっているでしょうか・・・それから1か月後。

アゴ下とか頸部から頭部にかけて症状・・・無し!お腹はどうでしょう。

下腹部のアップを見てみましょう。

問題無いですね!痒みの指標PVASも1になりました。実は2以下は正常ですので、ほぼ全く掻かないレベルです。
さて間は空けつつもステロイドの連用をしているので秋の健康診断で安全を確認です(当院の健康診断は恐らく京都で一番得位な検査です)。問題が無いのを確認して、更にステロイドを3~5日に一度にします。熱心なご家族で食事も並行してアレルギー用に変更して下さいました。これもまた功を奏したのかも知れません。この辺は証明するのが難しいですが(負荷試験と言う悪化させるテストはありますけどね)、結果が全てです。ステロイドはフェードアウトして更に更に2か月後・・・

右頸部の辺りです。お腹もどこにも再発はありません。
さて題名のFASSと言うのは猫アトピー性皮膚症候群(Ferine Atopic Skin Syndrome)の略です。これはFAS(猫アトピー症候群)の中の一つで、他にFAD(ノミアレルギー)・FFA(食事アレルギー)・FA(猫喘息)があります。痒みのある猫の中でFASSの子は最大で35%と言われますので、多いのですが全てではありません。ノミは29%だとも言われますし、食事は12%だとの話もあります。要するに「色々と考えて全方面的に除外やケアが必要」「それだけに可能な限り推論して検査や治療を絞る」事が大切です。
痒みのある猫の50%は喘息だと言われたり(当院でも症例報告の子で経験があります)、ノミアレルギーで痒い子の22%に消化器症状があるとか36%に外耳炎があるとか、19%に結膜炎があるとか、15%で呼吸器症状があるとか言われますので、皮膚だけを診ていたら良い訳ではありません。段々と症状は変化すると思った方が良いです。
また30%位の季節性FASSが2~4年後には14%位が通年性になっていると言うデータもありますので、年月で挙動が変わってきたりもします。この辺が猫さんのアトピーを疑える皮膚症状の難しさです。
ちなみに飲み薬だけでもステロイドやシクロスポリンと言った従来の治療薬だけでなく、犬のアレルギーの薬を使ったり、吐き止めを使ったり、ある種の精神安定剤を使ったり・・・と様々な手段があります。かと言って「そもそも内服できない!」って事もあるんですよね~。だからと言って今回使った長時間作用型のステロイドで済むかと言うと、京都で注射後の心不全での死亡例も発表されています(当院じゃ無いですよ!)。
とにかく色んな手を一緒に相談してご家族とネコ様と一緒に治療する事が大切です(実は執筆している今現在も一緒に色んな手で頑張っている子がいたりします)。今回も沢山相談してできる事を探して下さり、ご家族には感謝しかありません。何しろ猫様は病院に連れてくるだけで大変だったりしますから(;^ω^) 有難うございます!